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誰にも邪魔されたくない
キーンコーン……
お昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。
沢海は宮原の身体を横抱きに擁し、頭に口付けを落とす。
そのまま宮原の顔を引き寄せ、睫毛の先にあった涙の破片を唇で拭き取っていく。
宮原が安堵する様に目を閉じた事に沢海も安心したのか、身体の力が抜けていく。
酷い緊張の代償なのか、宮原は目を閉じると意識を無くしてしまった。
今の状態での宮原の身体と心の負担を考えると、沢海は宮原が落ち着くまで無理に起こす事は止めた。
「ーーーまた泣かせてしまったな…」
涙の跡が残る頬を指で拭うと、宮原はむず痒いのか自分の顔を沢海の胸元に擦り付けてくる。
そんな幼い子供のような仕草に沢海は宮原の背中に手を回すと、ポンポンとあやしていく。
「あれ?なんだ?」
コンクリートの床に落ちている何かに気付く。
沢海は宮原の身体を支えたまま、左足の爪先に器用に引っ掛けて、それを取る。
「ん?ーーーオレんの?」
『2番』とプリントされてあるサッカーのインナーシャツがキレイに折り畳まれ、ジムバッグの中に入っている。
「何で宮原がオレんの持ってるんだ?
クーリングダウンの時にピッチに忘れてた?
部室のシャワールームに忘れてた?」
「ーーーソ…ミーーーセンパ、イ」
「……ん?」
宮原が意識を取り戻したのかと顔を覗き込むが、薄く開いた口からはゆっくりとした呼吸音が聞こえるだけだった。
宮原の手が動き、沢海の左胸のワイシャツを緩く掴む。
「ーーー大丈夫だよ。
オレはここにいるよ…」
自分を繋ぎ止めるかのような指に、沢海はそっと指を絡め、自分も目を閉じた。
何度目かのチャイムが鳴ったのだろうか。
沢海は目を覚ますと、腕時計を見る。
『あ、やべ…
6限目の終業チャイムかよ…』
お昼休憩から2時間以上は経過している。
授業は欠席しても、流石に部活を休む事は出来ない。
「ーーー宮原、宮原!
おい…起きれるか?」
宮原は「う…ん…」と生返事はするが、直ぐに沢海の肩に顔を寄せ、また眠りに落ちてしまう。
「おーい。宮原ぁ!」
直ぐ耳元で沢海が声を上げるので、宮原はその声を遠ざけようと沢海の胸に耳を付け、ギュッと身体を寄せる。
抱きしめて離そうとしない宮原に沢海は満更ではない様子になってしまう。
沢海は笑いながら、宮原の頬を抓る。
「ケータイで動画、撮ってやろうか…」
そんな意地悪な事も考えたが、それだと益々宮原を起こせなくなってしまう。
沢海は宮原の耳に掛かる髪を掻き上げ、そこに唇を這わしていく。
耳朶を舐めると擽ったそうに身体を捩る。
宮原は首を竦めると、顎が上がり、口が開いてしまう。
「あ……んっ……」
まだ意識が眠っている所為で、喘ぎ声が簡単に漏れてしまっている。
今度は沢海は直接的な反応に一瞬、動きを止めてしまう。
「…その声、ヤバイって……」
沢海は宮原の顎から喉元に舌でベロリと舐めると、鎖骨に唇を押し当て、きつく吸い上げる。
同じような箇所に何度も責め立て、赤いキスマークを残していく。
チュッと音を立て、唇を離すといくつもの跡が鎖骨に這うように散っている。
自分の所有物なのだとマーキングをしているようで、「もっと宮原を独り占めしたい」という欲求が生まれてくる。
沢海はワイシャツのボタンで隠しきれない箇所、咽喉に唇を押し当て、軽く吸い上げる。
気管の通る皮膚の薄い部分に唇が触れ、途端に宮原が身を捩る。
「ーーーい、た……痛っ…」
痛みを訴える宮原に沢海は舌で舐め、慰める。
沢海が唇を離すと、ハッキリとキスマークの跡が残り、沢海は苦笑いしてしまう。
『ーーーこんなところにキスマークをつけたなんて分かったら、宮原、怒るだろうな』
沢海は宮原の耳に触れると口元を近付け、甘い脅迫を吐露する。
「宮原…
ーーーいい加減に起きないと濃厚なキス、するぞ」
沢海は宮原の口を自らの舌で抉じ開け、口内に入り込む。
宮原の舌を自分の舌と絡め、唾液を注ぎながら、沢海は宮原の顎を上げ、注いだ唾液が零れないようにする。
飲み込みきれない唾液が口元から漏れる。
ふいに沢海が宮原の舌を吸った瞬間、宮原の四肢がビクン!と反応する。
すると宮原の手が沢海の左胸を必死に叩き、足をバタつかせている。
沢海は自分の唇から滴る唾液を指で拭いながら、「あれ? 起きた?」と悠々と聞いてくる。
宮原は手で口を覆いながら、俯いて、耳まで真っ赤にしている。
「ーーーこんな事されれば、誰だって起きるよ…」
沢海は下を向いている宮原の顎をすくい取ると、いつになく真剣な表情で宮原の目を捕らえる。
沢海の色素の薄い瞳にジッと覗き込まれ、宮原は逸らすことが出来ず、その視界の中に取り込まれていく。
「…あ、あのーーー近い、んですけど…」
「ーーー宮原。じゃあ、さ。
もうそろそろオレの身体から退いて、部活行こうか」
「ーーーあぁ!!
す…すみませんっ!!」
沢海の身体を下にして自分が座っていた事に今更ながらに気が付く。
宮原はコンクリートの床に転がる様に沢海の膝の上から身体を退かした。
「…っつ、痛ぇ……やっぱり、足、痺れてる……」
「すみませんでした…」
沢海は右手を伸ばし、宮原の方へ差し出す。
「引っ張って起こしてよ」
「ーーーはい」
グイッと手を引っ張り沢海を立ち上がらせるとその反動を利用して、そのまま宮原を抱き締める。
正面から沢海の腕の中に囚われ、宮原は沢海の肩に強かに鼻をぶつけてしまう。
沢海は態とらしい行動を取って宮原を揶揄い、「…くくっ」と堪え切れずに小さく笑ってしまう。
「宮原、シャツ、サンキュー」
「…あ、いえ……」
沢海のシャツを自分が持っていた理由があるだけに、沢海の言葉を素直に受け入れるには、ぶつけた鼻の痛さよりも後めたさを感じる宮原であった。
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