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キスマーク

2人は屋上を出ると直ぐに教室には戻らず、一旦部室に向かった。 サッカー部の部室のロッカーは入り口から入ると直ぐにベンチシートが縦に5列並び、その真正面の奥にコの字型で大型ロッカーが並ぶ。 大型ロッカーはトップチーム専用となっており、各ロッカー内で座れるようにシートが付き、その他にコンセント、棚入れ等が設置してある。 その裏手から真横にサブチームのロッカーが囲うように並び、トップチームと比べてみても簡易的で質素なものになっている。 トップチームの選ばれた11人にしか与えられないロッカーは格差を明確に表し、お互いの競争意識を生んでいく。 宮原はサブチームのロッカーから練習着とスパイクを取り出すと、ベンチシートに腰掛けた。 沢海は制服のポケットから財布とケータイを取り出し、大型ロッカーに入れるとブレザーをハンガーに掛け、着ていたワイシャツを脱いだ。 サッカーのポジション、センターバックを任されている沢海の身体は着痩せをするのか、肩から背中、胸、そして腹筋と日々のトレーニングで鍛えられた身体は無駄がなく引き締まっている。 体脂肪率も常に10%以下をキープしているので、骨格から筋肉へと伝う彫刻のような身体は、完璧なボディバランスを保てていた。 サッカー選手に必要な筋肉と不要な筋肉を徹底的に絞り上げ、雄として情欲を彷彿される程の甘美な魅力を漂わせていた。 「コレ、お前のだろ?」 沢海は宮原が届けた、シャツが入っていたジムバックを手渡す。 「ーーーえ?ーーーあ、はい」 ふいに話し掛けられ、宮原はジムバックを受け取ると沢海を見詰める。 上半身が裸の沢海と言うよりは、均整の取れた人体の標本を眺めてしまうような感覚で宮原はジッと沢海の身体を見てしまう。 日々、苛烈なトレーニングを積み重ねてきても、中々筋肉量が増さない自分の身体に悩みが尽きない。 特に沢海の様な十全な身体を見る度に自己嫌悪にさえ陥ってしまう。 「何、見てんだよ!エッチ!」 「ーーーあ……ちがっ…違うってば!」 「違わないだろ?ーーーずっと見てるくせに」 『ーーー沢海先輩だって、オレの事ずっと見てるのに』と宮原は言い返そうとしたが、あまりにも自分が自惚れているような気がするので、口を噤んでしまう。 まるでお互いがお互いを行動を監視しているようで、気恥ずかしくなってくる。 ガチャリとドアが開き、松下が部室に入ってくる。 「あれ?宮原、ここにいたんだ。 午後の授業どうした? 急にいなくなったから腹でも壊しているのかと思ったぞ」 「ーーーごめん。ちょっと、サボってた」 「あーぁ。悪い子だなぁ」 宮原も練習着に着替える為にネクタイを解き、ワイシャツの袖のボタンを外す。 松下は手荷物をベンチシートに置くと、座っている宮原のワイシャツの襟元から首筋に手を伸ばす。 「何?……コレ? ……蚊に刺された?……キスマーク?」 「ーーーえっ?」 宮原は自分の首筋を手で押さえて、松下と距離を取る。 松下は「違う。ここだって」と言い、宮原との距離を更に詰め、ワイシャツをはだけると宮原の首の気管、鎖骨をツッと指でなぞる。 宮原は一瞬、声が出そうになり、松下から顔を背け、唇を噛む。 手を握り締めて我慢している宮原が明らかにーーー感じているーーーのが分かり、松下が意識してしまう。 「松下! ハートレイトモニターのチェックしたいから、こっち手伝ってくれ」 「あ、はい…」 沢海が松下を呼び寄せている間に宮原は立ち上がり、自分のロッカーの奥に手を伸ばすと1枚のシャツを取って、慌ててシャワールームに飛び込む。 ハートレイトモニターの心音と秒数を合わせる作業が終わり、暫くすると宮原がブスッと剥れた顔でシャワールームから出てくる。 既に高温多湿な季節に加えて体感温度も上がり、熱中症予防の為に練習を中断する事もある。 だが、それに反比例するように、宮原は首をすっぽりと覆うハイネックのインナーシャツを窮屈そうに着て、沢海を睨み付けた。 『あ、バレた。 ーーー怒って、いるよな…』 宮原はそのまま無言で練習着に袖を通すとハーフパンツを履き、ハートレイトモニターを乱暴にベンチシートに放り投げる。 スタッドの左右確認をすると、スパイクを履いて部室を出ていく。 当然、「バッターン!」と騒々しい音を立てて扉を閉め、完全に怒り心頭に発していた。 「……あちゃ…完璧、怒ってるわ…」 松下は呆れ果て、「原因は沢海先輩って事ね。 何してんすか……ったく」と、宮原が放り投げたハートレイトモニターを拾い上げ、設定をチェックする。 腕時計の秒針と数値を合わせ、それを沢海が奪い取ろうとした瞬間、松下は沢海の腕を払い落とし、力任せに沢海の右頬を殴った。 カシャンと2人の間にハートレイトモニターが落ちる。 「…ってぇな…」 「お前、自分が何してるんだか分かっているんだろうなぁ?」 「へぇ、先輩に対してお前扱いかよ」 「誤魔化すんじゃねぇよ!」 松下は沢海の胸倉を掴み上げる。 苛立ちを隠せない松下に沢海は一瞥すると、切れた口胎から滲む血を床に吐き出した。 「半端な気持ちな訳ないだろ。 お前こそ、手、出すなよ。 あいつはーーー」 「ーーーオレんのだから」と沢海は松下を鋭く睥睨し、優越に満ちた自信を表していく。 「宮原のキスマークじゃないんだからさ。 人目に付くような箇所を殴るんじゃねーよ」 沢海は利き足を振り上げ、松下の横隔膜を下から捻じるように踏み込む。 松下は強い圧迫に呼吸が引き攣り、膝から床に崩れ落ちる。 「…グッーーー」 身体を丸めて蹲る松下を沢海は上から見下し、高圧的に忠告をする。 「宮原に余計な事するなよ。 もし、あいつが泣くようなことがあれば、次は… ーーー容赦しないぞ」

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