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藤崎はバカだがごく稀に役に立つ①

 どうしてこうも日本人はイベントが好きなんだろうな。 正月……は、まぁいいとして、ハロウィン、クリスマス、節分、バレンタイン。 まさに今、どこもかしこもバレンタイン一色だ。 日本では女子が好きな男子にチョコレートを渡す日。 もともとどっかのお菓子会社が売り上げアップを狙ってはじめたのがきっかけらしいけど、チョコをもらうことのない非モテ男子への配慮をしてもらいたいもんだよ。 俺が唯一もらったチョコといえば中学の頃にクラスの男子全員がもらっていた所謂義理チョコってやつだけだ。 高校の頃のバレンタイデーはチョコレートが苦手な慎吾がもらったチョコを捨てるのはもったいないからと食べる日になっていた。 俺にとってバレンタイデーは日常となんら変りない日だった。 「何見てんの?」 大きく“HAPPY VALENTINE”と書かれたポスターをぼんやりと眺めていた俺の顔を藤崎が覗き込んだ。 「や、別に――」 「あぁ、もうすぐバレンタインだもんなぁ。ちょっと見ていこうぜ」 「え、ちょっ……藤崎!」 返事も聞かずに店に入って行く藤崎を追いかけ、勢いで入ったはいいものの……よくこんな女子だらけの中に平気で入っていけるよな藤崎。 相変わらず藤崎のメンタルには驚かされる。 「なぁ藤崎……」 「どれも綺麗で美味しそうだよな」 「そうだけど……」 確かにそれはそうだけど、それより俺には「何で男がチョコ?」みたいな女子の目線の方が気になるんだけど。 「どれか買おうかなぁ」 「何で?」 売り場を見渡している藤崎に訳が分からないと首を傾げた。 「だって食いたくなるだろ。自分用ってやつだって」 「自分用?」 何だその自分用って。自分が食べるチョコを買うって事だろうけど、それってもはやバレンタイン関係なくねぇ? それに女子からもらえなさそうな藤崎が自分で自分にチョコ買うとか、何か、何だろう……見ている俺が切なくなるぞ。 「何だよ水沢、知らないのか?今は女から男にあげるよりも友チョコとか自分チョコとかの方が多いんだぞ」 「そ、そんなものなのか?」 驚く俺に、友達同士で贈り合うのが友チョコで自分用に買うのが自分チョコ、他にも男から女に贈る逆チョコとかお世話になった人に贈る世話チョコなんてのもあるぞと藤崎が教えてくれた。 やたら詳しい藤崎に思わず感心してしまう。 俺が知らない間に世の中のバレンタイン事情は大分変っていたらしい。 でもだとしたら俺が佑真さんにチョコをあげるっていうのもありなのか。ありだよな。 「水沢?顔赤いぞ」 「藤崎!俺もチョコ買っていい?」 「お、おう。水沢もチョコ好きだったのか」 「好きってほどでもないけど、友チョコってやつ買おうかなって」 「え、でも――」 何か言いかける藤崎をおいて売り場を歩き出すと確かにいろんな種類のチョコレートが並んでいる。 佑真さんの分だけ買うのも何だか恥ずかしいし……とりあえず慎吾と藤崎の分も買っておくか。  女子だらけの行列に並びようやく会計を済ませ、藤崎の元へ駆け寄った。 「はいこれ」 「何?」 買ったばかりのラッピングされたチョコを差し出す俺を藤崎が不思議そうな顔で見てきた。 「友達にあげるのが友チョコなんだろ?」 「そうだけど……今日はバレンタインじゃないぞ、水沢」 「知ってるよ!だけど当日渡せるかどうかわかんねぇだろ」 ありがとうと言って受け取った藤崎は「ホワイトデーに何かお返しするからな」と笑った。 友チョコももらった人にはホワイトデーにお返しするものなのか。 そこらへんは普通のバレンタインと同じなんだな。 「だけど普通は友チョコって女子同士でする事が多いんだけどな」 「え!?」 男同士で友チョコって初めてだわと笑う藤崎に思わず足が止まった。 「どうした水沢」 「藤崎ぃ!!」 「いってぇ!何すんだよ~」 振り向いた藤崎めがけて勢いよく突進した俺を避けきれず、電柱に頭をぶつけた藤崎が不満気な声を出した。 何するじゃねぇよ。友チョコは女子同士でやる事が多いとか、そんな大事な情報は先に言えよ。レジに並んでいる時にちらちら見られていた理由はそれかよ! だけどその事実を知っていたらとても買えなかっただろうし、買えてよかったといえばよかったのか。 うん。何か楽しみになってきた。 「水沢ってさ、たまにニヤニヤしてる時あるけど……変だぞ?」 「お前に言われたくねぇよ!」 そうは言われても綺麗にラッピングされたチョコを見る度に顔が緩んでる自覚はある。 藤崎と出かけなきゃチョコを買う事すら思いつかなかったわけだし、少しの無駄口くらい大目に見てやろう。

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