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藤崎はバカだがごく稀に役に立つ③

 玄関を開けると宅配業者が大きな荷物を抱え「お届け物です」と愛想よく笑っていた。 またかよ、あの人個人情報だだ漏れすぎないか。 とりあえずこんな物が廊下にあったら通ることすらできない。 大きさの割には軽い荷物をリビングまで運び大きく溜息をついた。 「佑真さん……このご時世、他人に住所知られ過ぎてるのってどうかと思うんですけど」 「何を言ってるんだ?ここの住所知っているのなんて数えるほどしかいないぞ」 「だってあの花とか、これとか!」 たかだかバレンタインくらいで花とかこんなでかい荷物とか送ってくる人がいるくらいなんだから他に誰が知っていてもおかしくないだろ。 「だからあの花は兄貴からだって」 「お兄さん?どうして?」 五十嵐家ではバレンタインに兄弟で贈り物でもするのか。 「誕生日だからだろ」 別にいらないけどなと面倒臭そうな顔をしている佑真さんに、そうか誕生日なら別に不思議な事じゃないかと納得する。 ん?誕生日……? 「佑真さんって今日誕生日なんですか!?」 「あぁ」 「何で言ってくれないんですか!」 「何でって……聞かれなかったからな」 それはそうだけど、そんなあっさり言わなくても……。いや違う俺が知ろうとしなかったんだ。 佑真さんは俺の誕生日を知っていてくれたのに。 「佑真さん、ごめん……俺……」 「誕生日だからとかじゃなく、お前と過ごせる毎日が俺にとってなによりも大事なんだ」 気にするなと抱きしめてくれる佑真さんに俺は甘えてばかりだ。 「俺だってそうですけど……」 「あぁ、それとその荷物はお前のだ」 見上げた俺の額にキスを落とし、さっき運んできた大きな荷物を指差した。 「え、俺の?」 「開けてみろよ」 「あ、はい」 改めて見るとやっぱりでかい。ダンボールの高さは俺の胸辺りまであるし、横幅は両手を広げたくらいの長さだ。 そんなに重くはなかったけど何が入っているんだ。 恐る恐る開けてみると、目を細めたくなるほど真っ白な……クマ……のぬいぐるみだよなこれ。 「これ、佑真さんが?」 「お前、シロクマが好きだって言っていただろう」 好きだけど俺が好きなのは本物シロクマの方で、これはテディベア的なやつじゃないのか。 本物そっくりでも怖いけど。 しっかしどんな顔してこれ買ったんだろう。このイケメンの辞書には恥ずかしいという言葉はないのかもしれない。 だけど、箱の中からじっと見上げてくるこのシロクマがなんとも可愛く見えてくる。 「ふっかふかですね!」 狭い箱から出してやろうと抱き上げた感触が何とも言えないほど柔らかくて気持ちよかった。 「気に入ってもらえてなにより」 こういうの何ていうんだっけ、もふもふ?ふわもこ?肌触りを楽しむ俺の背後から楽しそうな佑真さんの声が聞こえた。 「何か見れば見るほどかわいいですね」 女子がぬいぐるみを集める理由がわかる気がする。 こんなつぶらな瞳で見つめられたら嫌な事も忘れられそうだし、癒される。 「でもどうして俺にくれるんです?」 よく考えたらそうだよ。誕生日なんだから佑真さんは貰う方で、あげなきゃいけない俺の方が貰ってるってどんな状況だよ。 「あー……それは……藤崎から聞いて」 「何を?」 困ったように笑う佑真さんに首を傾げた。 「お前が俺にチョコレートを渡すのを楽しみにしているって」 「は!?え、あ、いや……」 間違ってはいない、間違ってはいないけど何を言ってくれちゃってるんだよ藤崎の奴!! 渡そうとは思っていたけど、あんなに大量に貰っていて、しかもチョコが好きじゃないって聞いた後で渡すタイミングを完全に見失っていた。 「くれないのか?」 「だって佑真さん、チョコ好きじゃないって……」 「翔がくれる物だったら何でも嬉しい」 だから俺はその微笑みには弱いんだって。佑真さんならわかっていてやってそうだけど。 部屋から持って来たチョコを眺め溜息しか出ない。 知らなかったとはいえ誕生日プレゼントでもないし、あのクマとこのチョコじゃどう見たって釣り合いが取れてないだろ。 「ただのチョコですよ」 「ありがとう」 買ったことすら後悔しているそれを俺から受け取る佑真さんが本当に嬉しそうで、申し訳なさはあるけどこんなに喜んでもらえるなら渡せてよかった。 「あの、今更ですけど誕生日おめでとうございます。それとクマ、ありがとうございます」 優しく微笑む佑真さんと重なり合う唇の暖かさが、今までイベントに興味のなかった俺に楽しさを教えてくれた。 これから先もふたりで特別な日を過ごしたいと佑真さんに微笑んだ。  チョコを渡せた事も、ふわふわのクマを貰えた事も藤崎のおかげかと思うと何かひっかかるものはあるけど、優しく微笑む佑真さんと重なり合う唇の暖かさが藤崎に礼くらい言ってやってもいいかと思わせた。

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