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第2話

実家に送ってもらって 姉たちは帰るのかと思えば 夕飯を食べて行くと言う 「またぁ?いいけどさぁ〜」 母親も文句を言いながらも 嬉しそうに台所に立つ その横で 仏壇に手を合わせて 甥っ子たちにお土産を渡す 久しぶりの家族団欒 母親は 俺の好物ばかりを並べて 家庭料理を人と食べるのなんて 本当に久しぶりで 少し切なくなる 夕食の後 「今夜は何もないし 花火をしてあげよう!」と姉が言って 庭で手持ち花火をやる 何年か前 あいつが 花火をしたいなんて 急に言い出したから 大人2人で 少ない花火とバケツを買って ベランダでやった 「部屋の電気を消したほうがいい!」 だとか 「ビールを飲みながらやろう!」 なんて はしゃいで 準備はバッチリだったはずなのに 窓を閉め忘れて 火災報知器が鳴って 大騒ぎ 慌てて火を消して 残りは 近所の公園に持って行ってやっていたら お巡りさんに 「この公園は花火禁止です」と 言われて 大人の男2人 恥ずかしい思いをしたのを思い出す 懐かしい火薬の臭いと 花火の持ち手の質感 浮かび上がる光の中に まだ あの 横顔が見える気がして ぼんやりと火を見つめる 甥っ子たちは はじめこそ俺を警戒していたけれど そのうち 慣れてきて もう下の子は 花火の火を俺につけさせる役をくれた 「花火終わったら帰るよ」 と姉が言うと 「やだー!もっと 遊ぶ」と 小さな手が俺の手を取る 可愛らしい手を握り返す 柔らかくてふわふわだ 「だーめ、お化け出るよ!」 姉が脅かすと 小さな手をキュッと握って 「ねぇ?お化けってさ ホントに いるのかな?」 と 庭の暗がりを気にしながら 恐る恐る俺に聞く そう言う年頃だ 怖いものは好きだけど でも 怖い 自分にも覚えがある 「お化け?居ないよ?見たことないし」 「見たい?」 姉にそっくりな目が じっと見上げる 姉にそっくりと言うことは 自分にも似ている 血の繋がりとは ほんとに面白い そして 自分の血が繋がってると言うだけで こんなに 可愛く思えるのか 「うん 一回でいいから 見たいし 会いたい」 眉を上げて 言えば 子供は あからさまにワクワクした顔をしてはしゃぐ 「えー!!!会ったらどうする?!」 「会ったら 捕まえる!」 ケラケラ笑うと 甥っ子も怖いのを忘れてケラケラと笑っていた 花火の後 片付けをして 「俺 コンビニ行くけど なんか買うもんある?」 と 母親に言うと 「ついでに送ってあげよっか?」と 姉が車の鍵を指に引っ掛けながら言う 「いいよ いっぱい食べたし ちょっとは歩きたいの」 と 何年も前に置いていったビーチサンダルを履いて外に出る 静かな住宅地、よけいに虫の声が煩くて 耳鳴りみたいだ 少し歩くと慣れてきて 見覚えのある 懐かしい道を少し遠回りしてコンビニに行く 畑の横の 道祖神 その奥の 小さな神社に続く 暗い階段 中学になる頃までは 暗くなってから ここの前を通るのが怖くて この辺りは息を止めて走っていた覚えがある 息を止めていたのは 何か 怖いものの粒子のようなものが 呼吸と一緒に 体の中に入ってきてしまうんじゃないかという 妄想からだった 懐かしいな、と 通り過ぎようとすると 神社の方から お囃子の笛の音に太鼓の音 ガヤガヤと声もする 階段を覗いてみると その上の方からは 提灯の明かり 祭りがあったのか、姉に教えてやれば 甥っ子を連れてきてやれたのに そう思いながら 階段を登る もともとこじんまりした小さな神社だった 大して信心深くもない俺は 正月と受験の時に ここに手を合わせたくらいで あまり 覚えてはいない 階段を上り終わると 小さな鳥居をくぐって 目の前には 露天が数店 そこそこ賑わっていた ひとまず 一番奥の社に参拝をしていこう 財布の中の小銭を数枚お賽銭にして手を合わせる 神頼みなんか この年になると なかなか浮かばない 健康、金運、どれも ピンとこなくて 「幽霊に会えますように」 的外れな神頼みをして さっきの甥っ子との会話を思い出して ふふっと 少し笑う きっと あいつなら 醤油がこげるいい匂いにつられて 「何か 出店で買って コンビニでビールでも買って それをツマミに飲もうか」 なんて言うんだろうな 石段を降りながら 砂利を踏むと 「久しぶりっ」 聞き覚えのある声に 驚く 時間が止まった気がした

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