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第3話
顔を上げると 懐かしい顔 今 お前のことを考えていた そう思うと
心臓がギュッと苦しくなる
「久しぶり、まさか こんな所で、」
あの頃と変わらない 涼しげな目元に色素の薄い肌
黒い浴衣がよく似合う
懐かしくて 今でもまだこんなに愛おしくて
好きで 泣きたくなる
もしかしたら 自分は死んでしまったのかもしれない、それともこれからすぐに 死んでしまうのかもしれない
会えるなんて思わなかった
「うん、、ほんと、、びっくり、、浴衣なんて着るんだ、、」
言葉に詰まりながら言えば 向こうも 目を細めて 切なそうに微笑んでから
無理矢理笑う
「えぇ、そこぉ?着るよ?似合う?」
少しだけ たもと を広げて 首を傾げて顔を作って見せる
「そんなの持ってた?」
「それより そのTシャツ俺の?」
指さしたのは 昔 流行ったバンドのツアーTシャツ
今時 こんなの着てるやつのが珍しい
「え、そうだっけ?」
「そうだよ!気に入ってるならあげるけどさ」
「うん、、」
Tシャツの胸元をギュッと握る
そんなの 知ってた
お前のTシャツだと分かって着てるんだ
ほんとは サイズだって1つ大きい
首が伸びたって ボロボロになったって 俺はきっとこれを着る
そんな 俺の様子を見て
「あはは、スーパーボール掬いしよーぜっ!!」
空気を変えるように 言う こいつは 昔からそう言う奴だ
空気を読みすぎて いつでも 人に気を使う
そう言うことができる奴
「マジかよ?いいよ」
俺も無理やりに笑顔を作って返事をする
そんな事も出来るようになった
昔は俺はこれが出来なかった
喧嘩をするたびに ヘラヘラ笑って 喧嘩を避けようとする こいつに腹が立って
いつまでも 一人で イライラと怒って
最後の日も
のらりくらりと 話を変えるこいつの態度に腹を立てて
そして 離れた
今思えば 子供だったと 後悔しても遅い
スーパーボールの屋台に行くと 色とりどりのボールが ぐるぐると水の中で流れていた
「キラキラの奴!でっかいの取って!!」
昔から 子供っぽいところがある奴だった
そう言う所は 変わってないんだな と 嬉しくなる
新しいスーパーボールの独特のにおい
お金を払って 俺もポイを受け取る
かなり気合を入れて
良いところを見せたいと 大人パワーで いくつも すくう
「お兄さん いくつ取れても二個までよ!」
とおじさんに言われて
少し恥ずかしい
その上 キラキラのは大きかったので
それ1つと言う 独自ルールで
貰えたのは キラキラのスーパーボール1つ
小さなビニール袋に 入れてもらって 指に引っ掛けて立ち上がる
目線の高さまで持ち上げて 提灯の光に照らす
今 取ったばかりのスーパーボールは 中のキラキラと相まって どこか 懐かしいノスタルジックな気分にさせられた
「なんか 懐かしぃ」
「だな、んっ」
渡してやると 大切そうに受け取って 微笑む
「ありがと、嬉しい」
右の耳たぶを引っ張りながら 嬉しそうに言う
素直な言葉 仕草は 昔から変わらない
嬉しい時、恥ずかしい時 無意識にこれをやるらしい
俺から告白した時も
一緒に暮らそうとこいつが言った時も
こうして 恥ずかしそうに耳たぶを引っ張りながら
「ありがと、嬉しい」と 言ってくれた
今だってこんなに好きなんだ
どうしたら 心の中、生活の中から
こいつを追い出せるんだろう
顔を見なければ もう 思い出さないと思っていたのに
顔を見なくたって いつだって 胸に占めるのは こいつのこと
時薬と言って 時間がゆっくり解決すると 言われたけれど 今だに 時間はこの想いを消してはくれない
朝起きるたび 夜眠るたび こいつのことを考える
見てしまえば尚更 好きな気持ちは膨れ上がって 溢れてしまいそうだ
「今でも好きだ、そばにいて欲しい それが出来ないのなら 俺がそばに行く」
と言ったら こいつは どうするんだろう?
また 耳たぶを引っ張って 微笑んでくれるだろうか、それなら 言いたい
だけど 果たして 自分にそこまでの覚悟はあるんだろうか?
それに 言えば困らせることをわかっているから言えない
微笑む横顔を盗み見る
目が合うと
「大人っぽくなったよね」
とからかわれる
「変わんねーよ」
と 人混みなのをいいことに わざの手の甲を こいつの手の甲にくっつけた
触れたかった
「そう、かな?」
向こうも手の甲をこちらにぶつけて 耳に髪をかけながら 向こうを見る
白い首筋が目に入って 泣きたくなった
目線の先には 赤く艶々した りんご飴
「食べる?」
「別に 食べたくて見てたんじゃないよ!何となく見てただけです」
いつまでもこうしていたい
もうすぐ 終わりの見える露店の先に不安になる
この鳥居を出たくない
立ち止まると 振り返って 顔を覗き込む
「暑いよね?なんか 飲もうよ」
「何がいい?」
特に決まってもなかったんだろう 目についたラムネを見て
「アレ!」と 指をさす
「買ってくるから待ってて」と言おうとして やめる こいつは 待たないかもしれない
「行こ」と 腕を掴んで
大量の氷水の中 気持ちよさそうに沈むラムネを一本買う
お店のおじさんが 瓶を拭きながら
「開けますか?」と声をかける
「お願いし、」言いかけたところで Tシャツの袖を引っ張られて 顔を横に振るから
「自分でやります」
と言って そのまま 冷たく冷えた瓶を受け取る
「こっち」
少しでも出口から離れたかったから社の方に引き換えして 角の方で 社の石段に座ってラムネを開ける
案の定 吹き出した ラムネに 一緒に笑ってはしゃいで
自分の手にかかった ラムネを舐めると
その手を掴んで 悪戯な顔して 舐めたから
胸がドキドキと煩い
離れていく腕を掴んで 引き寄せる
ラムネの瓶を持った手
仕方なく 腕でギュッと抱きしめたら
Tシャツの背中をギュッと掴んで 俺の肩に顔をつけた
昔と変わらない 背中の硬さ
体なんか動かさないのに 見た目の割に整った筋肉
包み込まれる
首筋に顔を寄せて大きく息を吸い込む
腕の力を少し緩めると 少しだけ離れて
見つめ合う
遠くにお囃子の音 薄暗い提灯の灯で 潤んで見える瞳
あ、キスして良いんだ
首を傾げて 近づこうとすると
「キャハハハっ!!」
子供の笑い声がして 慌てて離れる
お互い 気恥ずかしくて 目を合わせて笑い合う
ラムネを一口飲んで 渡すと 向こうも笑いながら 一口飲んでこちらに返した
カラカラと ビー玉の音
口の中には シュワシュワと弾ける炭酸と甘い香り
ラムネで濡れた唇から目が離せなくて
所在なく 膝に置いた こいつの手を握る
チラッと見ると 指を絡めて 少し冷たい 掌の感触
お互い 自然に目を合わせて 少し微笑んで
触れるだけのキスをする
キスの後 切なそうに微笑むから
溢れそうな気持ち 泣き出してしまいそうで 下を向く
手を離そうとするから その手をギュッと握って離さない
もう 離さないと言う 意思表示のつもり
「もう 離したくない、、、」
絞り出すように言うと 耳たぶを引っ張りながら
「歩きながら飲もうか、送ってくよ」
いつもの調子で 話を変えられて 促されるように 立ち上がる
手を繋いだままで 参道を歩いて鳥居に向かう
どこまで人に見られているのかも もうわからないし 人目なんてどうだっていい
この手を離したくない
鳥居をくぐる瞬間 少しだけ緊張して 手を握ると 同じ強さで 握り返された
家に向かって 手を繋いで2人で歩く
蒸し暑い まだ熱の引かないアスファルトの上を
ぺたぺたとビーチサンダルの足音が響く
話す言葉は無くて お互い黙っていた
ポツリと「帰りたくない」と 言ったら 困ったな、って顔して そっと微笑むだけ
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