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まさかマジかのオカマ課長 1
江崎工業株式会社は自動車部品の開発と製造、それも主にメーターなどの計器類を扱い、各自動車メーカーにそれらを納める会社である。
自動車メーカー側からすれば下請けのような存在だが、下請けといっても、さらに下請けとなる中小企業を傘下に持つ同社の規模はかなりのもので、一級河川のほとりに広い敷地を所有しており、そこには組立工場と、大半の部署のオフィスが入る、四階建てのビル――本社ビルと呼ばれている――が建設されている。
この本社ビル一階の総務部の片隅に、肩身が狭そうに机を並べているのが業務課だった。業務課というと聞こえはいいが、社内の雑用を一手に引き受けている、単なる便利屋集団なのである。
同じ総務部の中でも、総務課や経理課、人事課といった連中はデスクに座ったきりで、よほどのことがない限り、冷暖房完備の快適な室内から一歩も出ようとはしない。
こちらのビルから工場の端まで行かなくてはならない社内メール便の受け渡しから、各部署の事務用品の配達に不用品の処理まで、面倒なこと、厄介事はすべて業務課へまわってくる。
それもこれも、先代社長のワンマン経営方針に端を発しており、他に比べてランクが下の部署を作ることで人々の不満を逸らす、いわば江戸時代の士農工商の身分制度を応用。士、すなわち武士にあたるのが開発部で、農工商のさらに下の身分のポジションにあたるのが業務課というわけである。
企業のコンプライアンスが問われ、パワハラやセクハラに関する新しい法律が制定された今の時代に逆行する、時代錯誤も甚だしい会社なのだ。
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