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まさかマジかのオカマ課長 9

 あっち系、すなわちゲイを意味すると、説明しなくとも伝わったようだ。 「うっ……うん、まあ」  いったん言葉を詰まらせた豊田は「マイッたな」と言いながら、困り顔のような笑顔を向けた。 「あー、でもさ、そのせいで仕事に支障はないし」 「マジかよ。開発部って男の社員だけだろ。セクハラ受けたヤツとか、いそうじゃん」 「そんな噂はまったくないよ。公私混同するような人じゃないって」 「信じられねえな」  だったら、相手が会社の新人と承知の上で寝たというのはどうなるのだ。公私混同を超越しているじゃないか。  天総一朗、その能力の高さを買われてヘッドハンティングされ、中途入社したと聞く彼は齢四十一歳にして独身。マンションで一人暮らしを謳歌している。天という珍しい苗字だが、先祖が中国国籍というわけでもなさそうだ。  それにしてもだ、ここは時代錯誤も甚だしい、古い体質と揶揄される会社である。  そんな会社側が彼の、ゲイという性癖を把握しているか否かはともかく、ビジネスマンらしくない奇抜な服装や、オネエっぽい言動に関して何のお咎めもないとは。  不思議に思えて当然だが、それもこれも彼が優秀な人材であり、請われて入社したことと、部下の人望も厚いからで、営業などと違って接客するわけでもないしと、黙認されたようだ。 『いやあ、すごく融通効くっていうか、変なところで寛大だと思うけど……』  先程の豊田の言い回しはこのこと──総一朗の存在を意味していたのだ。

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