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ミスターエンジェル 1

 Xデーははたしていつやってくるのか。戦々恐々としている創の携帯電話に総一朗からのメールが届いたのは三日後の、木曜の夜だった。  ラブホテルに泊まったあの時、こちらが泥酔し、正体を失くしている間にアドレスを手に入れていたのだろうと思うと、末恐ろしくなる。 『明日の夕食はフレンチのディナーよ。そこでテーブルマナーを勉強しますから、きちんとした格好をしてくるように』  ナイフとフォークの絵文字入りには恐れ入る。今時、絵文字を喜んで使うあたりがオヤジだなと思いつつ、創は返信の文面を入力し始めた。 『きちんとした、っていっても、就活用の普通のスーツしか持っていないけど、どうすんだよ?』  そう訴えると、ワイシャツにアイロンがかかっていて、ネクタイを締めていればいいという返事。  なぜ、彼の命令に従わなければならないのかという不満はもちろんあるが、高級ディナーを奢ってくれるという話に食指が動いた。  表現が古臭くて恐縮だが、これはリッチな中年と援交する女子高生か、それとも有閑マダムお気に入りの若いツバメといったところか。  どちらにも当てはまるような、そうでないような微妙な状態ではあるけれど、学生時代から引き続いての、一人暮らしの貧乏生活を送る身としては、一食分の経費が浮いていいじゃないかと、創は自分を納得させた。  例の写真、あるいは動画をばら撒かれる恐れはあるし、ここはおとなしく相手の言う通りにして、妥協するべきなのだ。

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