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ミスターエンジェル 2

 こうして退社後、入社式の時と変わらない服装で創が出向いたのはH市の駅の近くにある、この付近ではもっとも高級とされるシティホテルだった。そこの正面玄関前で、既に到着していた総一朗が創を出迎えた。  今夜のスーツは紫紺で、淡いブルーのワイシャツに、紺地に銀色の柄の入ったネクタイを締めている。  ホストと見紛うばかりの、いつものド派手な格好──  火曜日は黒と赤で統一、水曜は紫のスパンコールがついたジャケットだった。昨日はたしかオレンジ色だったような…… ──それよりはシックな服装でいくらかマシと言えるが、それでもこの並外れた美形が人目を引く人物であるのはたしかである。  顔の皺は少ないし、白髪もなくて髪の量も多いから実年齢よりずっと若々しく見える。せいぜい三十代前半、いや二十代後半でも通用するだろう。  こうして何気なく立っていても、若い女からオバサマたちまでが皆、彼を振り返って見ているし、女性ばかりでなく男をも振り向かせるあたり、全身から人を惹きつけるオーラが出ているのかもしれない。  あれでオカマじゃなかったら、真っ当な紳士だったら、ずいぶんとモテるはずなのにと思いつつ近づいて行くと、創の姿を認めた総一朗は片手を挙げて合図をした。 「ここの最上階のレストランなのよ。向こうのエレベーターに乗るから」  男二人でフレンチのディナータイム、店の者や他の客の目にはどう映るのか。

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