26 / 136

ミスターエンジェル 3

 二人の、その年齢差十九歳。親子ほどの差はあるが、見た目は『似ていない兄弟』あるいは『年の離れた友人同士』というのが妥当だろう。まさかゲイのカップルなどという、おぞましい冗談は勘弁してもらいたい。いや、考えすぎ、被害妄想というやつか。  案内されたフレンチレストランはヨーロッパテイストの格式高い、アールヌーヴォー調の店で、インテリアはオリーブグリーンでまとめられ、落ち着いた雰囲気となっている。  大きな窓の向こうには都会の、とまではいかないがそれなりの夜景が見渡せ、そんな窓際のテーブル席に案内された二人は向かい合わせに腰かけた。  テーブルには淡いピンクのクロスがかかり、ナイフにフォーク、グラスが仰々しくセッティングされていて、それらを目にしただけで創は緊張してしまい、ぎこちなく辺りを窺った。 「何きょろきょろしてるのよ」 「い、いや、別に」  最初はカンパリソーダでアミューズ・グールを楽しみ、次に差し出されたワインリストを見た総一朗は何やら指で指し示して、赤ワインをオーダーした。 「一九七八年のシャトーピションね。こちらをお願い」  やがて蝶ネクタイをしたソムリエが総一朗のグラスにルビー色の液体を注ぐ。テイスティングというやつだ。  オッケーが出ると、目の前のグラスにも同じワインが注がれて、そんな一連の動作を創はぽかんと見守っていた。  テレビドラマで観たことはあるが、実際に目にするのは初めてのシーンに呆然としていると、総一朗がクスリと笑った。

ともだちにシェアしよう!