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ミスターエンジェル 4

「何? ぼんやりしちゃって」 「べ、別に、ぼんやりなんかしてねえよ」  優雅にグラスを傾けたあと、総一朗は「ワインのお味はいかがかしら」と訊いた。 「酒はいつもビールかチューハイだし、飲みつけてないから美味いかどうかなんてわかんねえよ」 「まあ、そうかもね。あ、ナイフとフォークは外側から順番に使うのよ」 「あのなぁ、そのくらいわかってるし」 「そっちのフィンガーボールの水は飲んじゃダメよ、指を洗うんだから」 「だからわかってるって。誰が飲むかよ!」  某国営放送あたりで『初心者のためのフルコースマナー』という教養番組があったとしたら、再現フィルムで繰り広げられるシーンはこんな感じだろうか。  まるでコントのようなやり取りをしながら、二人は美しく盛り付けられたオードブルを食べ、次にスープ――じゃがいもとポロ葱の冷製ポタージュへと進んだ。 「いい? スプーンで手前からすくうのよ。音をたてないように、エレガントにね」 「ごちゃごちゃうるせえな」 「だってあなた、場慣れしてないんだもの」 「悪かったな。貧乏学生から新入社員になったばかりだぜ、コースなんか食べ慣れてるわけねえだろ」  それはそうだと、微笑む姿が憎らしいような、それでいて暖かく見守られているような不思議な心地がこそばゆくて、創はわざと乱暴に振る舞い、フランスパンをガシガシとかじってみせた。  それにしても、この料理といい、ワインといい、かなりの値段のはずだ。創は昨日の昼に豊田から聞かされた、開発部第二開発課の新人歓迎会の話を思い出していた。

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