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ミスターエンジェル 5
今週の水曜日は「残業はなるべく控えましょう」をスローガンにした、いわゆるノー残業デーとなっていて、その晩、開発部社員たちによる豊田の歓迎会が催されたのだが、二次会の費用の大半を総一朗がポケットマネーで負担したという。
既婚の同世代がローンだ、教育費だで大変な時に、四十代独身ならではの金離れのよさは当然だが、気前のいいところが彼の人望をさらに高めているといっても過言ではない。
豊田もすっかりファンになったらしく、先輩社員たちに同調して、総一朗を「ミスターエンジェル」と呼んだ時には思わずのけぞってしまった。
天氏イコール天使。仕事で行き詰った時やプライベートな悩みにも親身になってくれる彼は部下たちにとって、まさに救いの神ならぬ天使ということらしい。
(エンジェル……天使ねぇ。とんだ『まくらことば』だぜ)
四十過ぎのオッサンにエンジェルはなかろうとも思われるが、見た目は年齢不詳かつ、いくらか中性的なルックスのお蔭で、部下たちの間でも違和感なく使われているようだ。
「何よ、じろじろ見ちゃって。アタシってそんなに魅力的かしら」
「よく言うぜ、まったく」
鼻にかかったような甘いテノールで、厚かましいセリフを言ってのける総一朗の態度に肩をすくめたあと、創は改めて彼に質問をした。
「あのさ、ひとつ訊きたいんだけど」
「せっかくのお料理がまずくなるような話題はやめてよね。それが食事時のマナーよ」
そう言われて躊躇してしまった創だが、早く話せと促す視線を受けて、再び口を開いた。
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