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ミスターエンジェル 7

 女性を愛せる体質ではない。だが、男の格好をしている限り、女たちは彼をゲイとは知らずに近寄ってくるだろうし、そのたびに彼女たちの求愛を断り続けなくてはならないのだ。  自分の性に対して違和感を抱いているわけではないから、ニューハーフなどのトランスセクシュアルとは違うし、女装の趣味も、そういう服を着たいとも思わないので、トランスヴェスタイトでもない。  では、どうすれば一見してゲイだと認めてもらえるのか。考え抜いた挙句、総一朗はオカマを演じることに決めた。  オカマはトランスセクシュアルに近いけれど、多分に演技でカバーできる。  そういうキャラを売りにしている芸能人も少なくはないし、彼ら全員が本当にトランスセクシャルであるとか、ゲイの指向があるとも思えない。つまり『演じている』のだ。  そんな芸能人に倣って、一応紳士物ではあるが、色や柄が派手めの服装をする。そこに加えて、日常会話におネエ言葉を使用。これらはオカマキャラを構築するのに重要な要素と考えられる。  こうして、見かけのオカマ像を作り上げる作戦は見事に成功し、女たちは総一朗を男とみなさなくなった。 「オカマって便利よ~。三十歳もとっくに過ぎて、お見合いの話が次々と持ち込まれるようになったけど、『アタシはコレだから無理~』でオシマイ」  総一朗は右手を頬に当て、しなを作るポーズをしてみせた。 「いちいち断ったりしなくてもいいから、すっごく楽なの。お蔭ですっかり板についちゃった」

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