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ミスターエンジェル 8

 それなりに説得力のある話に、創はなるほどと、うなずいてしまった。  中身がゲイでも、見た目が普通の男ではわからないが、オカマの姿をしていれば即座にそうと判断され、説明は不要だ。 「それでも年に一、二回ほどかしら、親切でおせっかいで、オカマ作戦も通じない人が『四十にもなって独身なんて、いい加減に身を固めたらどうだ』って、お見合いを勧めてくれるけどね」 「で、お見合いしたのか?」 「まさか。『男たるもの、家庭を持って一人前だ』って、理屈はわかるけど」  ひと昔前までは当然のように聞かされた言葉だが、個人の生活観の多様化、結婚観が流動的になった昨今、そういう奇特な人は貴重な存在だとは思う。 「最近、自分のライフスタイルを守りたいとか、妻や子供といった存在が煩わしいとかいう理由で、結婚しない四十男の存在がクローズアップされるようになったわよね」 「ああ。何かで聞いた」 「でも、アタシの場合は独身でいたいわけじゃないし、結婚がイヤなわけでもないのよ。どっちかって言うと、願望が強い方かも」 「ただ、女と結婚する気はない、と」 「そういうこと。相手が男なら喜んで、なーんて思うけど、それじゃあ社会の基盤となる一般的な結婚の形態を成さないし」  それはそうだ。男女が結婚して、子供が生まれて、初めて社会の基盤と認識されているのだから仕方がない。 「いくら時代が変化してきたとはいっても、この国で男同士の結婚が認められるなんて、これっぽっちも期待していないけどね」 「そのあたりのことはよく知らないけど、パートナーシップがどうこうって」 「まだまだ始まったばかりよ。若い人はともかく、上の世代の意識を変えるってのは簡単にはいかないわ」

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