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ミスターエンジェル 9

 天家長男の、そっちの指向はかなり以前から、両親の知るところだったようだ。  美形で秀才、エリートコースにも乗った申し分のない男なのに、いつまでたっても彼女ができる気配はなく、見合い話も断ってしまう息子はどこかおかしいのではないかと問い詰められて、ついにカミングアウトしたらしいのだが…… 「そのせいで昔気質の父親に勘当されてね。二度とこの家の敷居をまたぐなって。五年前の、母の死に目にも会えなかった……」  そのことを口にした時、総一朗の顔がわずかに歪んだ。彼の表情に陰鬱な影が差すのを見るのは出会ってこの方、初めてだった。 「お母さんの……」 「あら、ごめんなさい。アタシとしたことが暗い話になっちゃったわ」  元気に、時に強引に、明るく振る舞う総一朗にもそんな過去があったとわかると、創は複雑な気持ちになった。  故郷に帰ることを許されず、盆や正月も一人暮らしを続ける彼は満たされぬ思いの代償に、めいいっぱいの愛情を部下たちに示しているのだと思われる。 「……じゃあ、オカマってのは会社や世間に対する仮の姿なんだ」 「仮の姿か、うまいこと言うわね。ま、そうともいえるわね」 「普通に話すこともできる? その、アタシ、とか、そういう言葉遣いじゃなくて……」 「そうして欲しい?」 「聞いてみたいなって」 「いいよ」  とたんに総一朗の表情が変わり、創はドキリとした。  伏せたまつ毛をゆっくりと上げると、取り澄ました表情でありながら、妖しい瞳でこちらを挑発するまな差しを向ける。

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