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ミスターエンジェル 10
何て魅力的なんだろう。
この世代の男性、くたびれた普通のオヤジではそうそう持ち合わせてはいないフェロモンが全開、それは成熟した大人の男の色気を漂わせた顔つきだった。
「では次に、何を話題にしようか、加瀬くん」
「えっ、と、その……」
「せっかくの機会だから、やはりワインについて話そうかな。そもそも、キミの知性と教養を磨くというのが、この食事会の目的だったしね」
オネエ言葉のしゃべりではなく普通の男性として、と自らリクエストしたのに、何も言い出せないまま戸惑う創に対して、いくらか冷ややかな視線を向けたあと、総一朗は外国産ワインのボトルのラベルから、それがどういうワインなのかを判断する方法を説明し始めた。
その声ときたら──さっきまでと同じテノールなのに、まるで雰囲気の違う彼に、魔法をかけられたようで身動きできない。
「……で、この『グラン クリュ クラッセ』という部分がぶどう園に与えられている格づけで、その下が品質。これはフランスワインの場合で、ドイツやイタリアはまた表記が違ってくるんだ。聞いているのかい?」
コク、コクと首を縦に振るものの、難しい講義を受けている学生時代みたいでリアクションがとれず、そんな創に総一朗はやれやれと苦笑した。
「何度も言うようだけど、キミに知識と教養を与えるために、こうしてレクチャーしているんだけどな」
「はあ……」
「そういう反応じゃあ、こちらの気が抜けてしまうね」
「すいません」
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