34 / 136
ミスターエンジェル 11
ダメだ、『色気と知性があふれる大人の男』を目の前にして、カンペキに呑まれている。
タメ口で言い返したり、反抗したりできる分、オカマヴァージョンの方がマシかも、と創は思った。
豊かな教養、冴え渡る頭脳に弁も立ち、飛び切りのルックスを備えた総一朗はあまりにも他を圧倒する存在だ。
だが、それはかえって自分の居場所を失いかねないものがある。それなりのレベルの人々が集まる企業や研究施設ならともかく、江崎工業のような、地方の一企業には馴染めず浮いてしまうばかりだが、そこでオカマだ。オカマを演じた方が皆に溶け込め、親しんでもらえる。
女性に男を意識させないという目的以外にも、オカマにはこんな効用があったとは。創は妙な感心をしてしまった。
サラダにメイン料理、デザートを食べ終えて、コーヒーにミルクを入れる創の前で、総一朗はブラックのまま、それを飲んだ。
「さて、今夜の講義はこれで終了だ。少しはマシな男になったかな?」
「終了、って、もう帰る……んですか?」
「何か別のことを期待してたのかい?」
「い、いえ、そういうわけじゃ」
しどろもどろの創の様子に、総一朗は下を向いて笑いをこらえていたが、とうとう吹き出してしまった。
「やっぱり『素』の顔で対面するのは、まだまだ無理のようね。よそ行きの声出して、何しゃちほこ張ってんのよ。ほらほら、エラそうな口利いてみたら? いつもの勢いはどうしたの? 仕方ないわね、オカマに戻るわ」
「だ、だって……」
ともだちにシェアしよう!