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ミスターエンジェル 12

 唇を尖らせる創をいたずらっぽい目で見たあと、総一朗は「ここはホテルだし、部屋をとってあるから、なんて言い出すと思ってたんじゃないの?」と訊いた。 「…………」 「おあいにくさま。紳士たるもの、ガッつくんじゃないの」 「ガッつくってゆーか、そもそも今夜の誘いはそっちからだし、オレは男とヤりたいなんて、これっぽっちも考えてねえよ!」  息巻く創、総一朗はそんな彼を侮蔑するように言い切った。 「ヤるとか、ヤらないとか、すぐそっちの方面に直結する発想がペケなのよ。あなた、それで女の子にフラれたでしょう」  たしかにそのとおり。  元カノに「セックスだけの男」と言われたのを思い出して、創は憮然としたが反論できるはずもない。 「デートコースはそうね、駅で待ち合わせして、流行りの映画を観てから、近くの店で食事を済ませてホテルへ直行。数少ないバリエーションとして、映画がゲーセンかカラオケに代わる。そんなところかしら、図星?」  図星も図星、大当たりだ。可奈とのデートはいつもそのパターンだった。 「カフェなんかで、お互い無言でそれぞれ勝手に雑誌を読んでいたり、スマホいじったりしてるカップルを見るけど、あれ、二人で一緒にいて楽しいのかなって思っちゃうわ」  たしかにそれは『惰性』だと思う。ムスッとしながらも創はうなずいた。 「いい? 最終的にはホテル……そうなったとしても、そこに至るまでの、二人で過ごす時間を楽しむことを考えた上で、デートコースをプロデュースしなきゃ、イイ男失格よ」  料金の支払いを終えた総一朗は次に「さて、それじゃあ明日は和の世界へ御案内するわ」と言い放った。

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