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ナイスなミドルでライバル参上 2

「元がいいんだから、上手にオシャレすればもっとカッコよくなるわよ。ほら、見た目だけでもイイ男の出来上がり」  デニム素材の、カーキ色の靴で足元を決めて完了。  創の変身を満足気に見ていた総一朗はこのまま着て行くからと、店員にタグをはずしてもらうと、代金をカードで支払い、時間がないから急いで出るよう促した。  N駅前の駐車場まで赴くと、総一朗はシルバーのボディが眩しいセダンのロックを解除した。  オリンピックの五輪マークに似た、四つの輪がつながるシンボルマークのついた高級外車であるが、国内自動車メーカーに製品を納める江崎社員は取引先の国産車に乗るのが原則になっている。  それを無視してこの車を買うとは。さすがに派手好きの型破り課長だと半ば呆れていると、早く乗るよう急かされて、創は慌てて助手席に乗り込んだ。  車を発進させた総一朗はデジタル時計にチラリと目をやった。 「開演には何とか間に合いそうね」 「いったい、どこに行くんだよ」 「さあ、当ててみて」  車が向かった先は県庁近くにある大型の文化会館で、大中小三つのコンサートホールがある。  そこの中ホールで行なわれる邦楽コンサート──馴染みの小料理屋『青柳』の女将が参加している三曲会の定期演奏会──に招待されたと総一朗は説明した。 「三曲ってのはね、箏に尺八、三味線のことよ。昔から伝わる古曲っていうジャンルの曲のほかにも、現代邦楽と呼ばれる、クラッシック調の曲も演奏するらしいから、そこらは聴きやすいと思うわ」

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