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ナイスなミドルでライバル参上 8

「……ふうん」  どうリアクションしていいのかわからず、気の抜けた返事をする。  ある程度の予測はついていた。  扶桑繁明という名の、あの紳士の薬指にはプラチナの指輪が光っていた。それが学生時代から続く二人の関係に終止符を打ったのだと、推察するのは容易だった。  それでいて、扶桑氏の方は総一朗とのつながりを失いたくないと思っている── 「ま、あの人が元カレだろうが何だろうが、あんたに彼氏がいようがいまいが、オレには関係ないし」  心にもないセリフを吐いて、創は片意地を張った。  さっき感じた不安、痛みの理由もそこにあるのだと認めたくはなかった。  すると総一朗はそんな創を軽く睨んだ。 「あら、ずいぶんね」 「だってそうだろ。ここにも無理矢理連れて来られたんだからな」 「無理矢理なんて、冷たい言い方するじゃないの」 「じゃあ、オレが尻尾を振ってついてきたとでも思ったのかよ」  反論すればするほど、気持ちとは裏腹な言葉になってしまう。そんな自分が歯がゆくてならない。  やれやれといった表情をしたあと、総一朗は「まあ、いいわ。そろそろ行きましょうか」と促した。 「へいへい」  胸の奥にモヤモヤとしたものが降り積もり、暗く澱んでいくのを感じる。 (あー、オレってば最低だ)  粋な着物姿の背中を追いながら、創は自己嫌悪のどん底にいた。

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