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やり切れない想い 2

「あのねぇ、余計なことは言わないの」 「だってさ、年齢と共に代謝が落ちてるんだから、カロリーオーバーで生活習慣病にならないようにしないと」 「失礼ね。ジムにだって通ってるし、ちゃんと気をつけてるわよ」 「へー。それはそれで骨折ったとか、筋肉痛になったとか、トラブりそうだよな」 「ったく、もう」  ボケとツッ込みの応酬、総一朗をさらにからかい、年寄り呼ばわりしながらも、彼とのやり取りがとても楽しく感じられる。  それは同世代の友人や女たちには抱かなかった感情だった。少なくとも彼らの前では、こんなに饒舌になりはしなかった。  年齢差のあることが却っていい刺激になっているのだろうか。そうかもしれない。中高年向けともとれる演奏会や店につき合うことも苦にはならないし、むしろ楽しんでいる自分がそこにいた。  だが、その一方で、さっきからの不安と苛立ちは遠慮なく募る。何とか静めようとするが、靄がかかったかのように、気分が晴れなかった。  冷たいものはぬるくならないうちに、温かいものは冷めないうちに。抜群のタイミングで料理が出される。  胃袋が満たされて、気持ちはいくらか落ち着いたようだ。八寸の『かのこいかウニ焼き』を一口含んだ創は「これ、うまい」と思わず感嘆した。 「ほんと、美味しいわ」 「オレ、懐石料理って、材料は山菜とか里芋とか蒟蒻とかで、煮物か味噌汁しか出ないんだと思ってた」 「あらまあ、お寺の精進料理と間違えていない?」  苦笑いしながら料理を口に運ぶ総一朗の箸使いは優雅で、和食をいただく時のマナーもバッチリ心得ている。

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