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やり切れない想い 3
容姿、才能、多彩な趣味。どうすればこんなに完璧な男になれるのだろう。
金と暇に任せてと言えば身も蓋もないが、旺盛な好奇心に、それを吸収する頭脳がなければ、こうはいかない。
創の中にじりじりとした焦り、嫉妬が渦を巻いたが、それは──総一朗に、完璧な男に対する憧れの裏返し、もちろん本人は認めようとはしないだろうけれど……
仲居が最後のメニューである菓子と薄茶を運んできた。
きちんと正座をして、作法に則って茶を飲み干した総一朗は「結構なお手前でした」と満足そうに言った。
「そういうのも習ってるんだ」
「母が裏千家の師範でね、自宅で茶道教室を開いていて、お弟子さんに教えていたのよ。それを子供の頃から見よう見まねでおぼえて、いつの間にか免状も取っていたの」
「ふうん」
彼から手ほどきを受け、同様に薄茶を飲み終えたが、よくリアクションされるように、そんなに苦いとは思わないけれども美味しいのかどうかは、よくわからなかった。
ようやく一段落ついたところで、創は「ここってタバコ吸っていいの?」と訊いた。
「個室だし、灰皿も置いてあるから、少しぐらいはいいかしら」
「ラッキー。昨日の店じゃ、食事時の喫煙はマナー違反だっていうから、ずっと我慢してたんだぜ」
「当たり前でしょ。料理がまずくなるし、みんなに迷惑じゃない。今はどこのお店でもそうよ」
「そっちは吸わないの?」
「健康のために禁煙しようと思って。でも一度には無理だから、節煙ってところね」
「会社の健康診断で引っかかったんじゃねえの。トシもトシだし」
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