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やり切れない想い 5
「あら、誉めてるのよ。素直に受け取ったらどう?」
創はふて腐れた態度で「そんなふうに言われると、もう絶対辞めてやるって気になるな」などと言い返した。
「またぁ、意地張って。天邪鬼なんだから、もう」
創の受け答えに呆れながらも、総一朗は茶化すことなく訊いた。
「世の中の大半の人は自分の希望した職業に就いているわけじゃないわ。あと半年、せめて三ヶ月続けてみる気はないかしら」
「三ヶ月で何かが変わるとでも?」
「さあ、変わるという保証はないけど……でもね、中途半端に放り出して転職を繰り返す人を見るけど、必ずしも思い通りにはいかない。むしろ状況が悪くなることもあるし、何がどうと、一概には言えないわ。どこで折り合いをつけるかは自分次第なんて、冷たい言い方だと思うでしょうけどね」
華やかな芸能界、役者やアイドルへの夢を追って、アルバイトに甘んじている人々のドキュメンタリー番組が放映されたのを観たおぼえがある。その一方で、皆が嫌がる職業に就き、過酷な仕事を黙々と続ける人たちがいるのも、承知している。
総一朗の言葉はもっともだと、創も頭の中ではわかっているつもりだが、つい反抗してみたくなる。相手がオカマヴァージョンなら、なおさらだ。
「ま、開発部のエリート課長なんかに、オレみたいなペーペーの気持ちがわかるわけないか」
創は投げやり気味に言い、挑発してみせた。総一朗は何と言って反論してくるだろう、試してみたい気持ちがあった。
「そうね……」
ところが彼はしんみりと考え込むような仕草をし、期待が外れた創は黙って二本目のタバコに火をつけた。
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