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エーゲ海に惑う 1
翌朝九時。ちょうど耳元に転がっていた携帯電話がやかましく鳴る音に、創は驚いて飛び起きた。
「なっ、何だぁ?」
まだ寝ぼけているせいか、位置がわからず手探りで電話機を探す。慌てて着信ボタンを押すと、聞こえてきたのは待ちわびていた人の声だった。
「おっはよー。起きてた?」
「……起こされた」
あっけらかんとした言葉が神経を逆撫でてくる、創はブスッとした口調で答えた。
「ごめんね~、ずっと残業続きで予定が立たなくって。今日は何とか休めるって、はっきりわかったのが昨夜も十二時過ぎてからだし、さすがに連絡できなかったのよ」
「あ、そう」
残業だったとしても、メールぐらい送れるだろうに。
昨夜の自分がどれほど苦しい思いをしていたか、まるでわかっていない総一朗の態度に、ムカッ腹が立つ。
不機嫌な応対をする創に、たたき起こしたのが悪かったのかしらと、総一朗はわびを入れてきた。
「あー、もう、いいから」
「変ねえ、何怒ってるのよ?」
「怒ってなんかいねえよ」
「絶対怒ってるって」
「うるせえな」
これは夫婦漫才というよりも、痴話喧嘩である。
なかなか連絡をくれなかった相手への不満もさることながら、昨夜、彼を自慰の対象にしてしまった後ろめたさと恥ずかしさも手伝って、創は手のつけられないひねくれ者になっていたのだ。
それでも電話での通話だからまだいいようなもので、今、総一朗の顔を見るなんて、直接、面と向かって会話するなんて、この精神状態では絶対に不可能だと断言できる。
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