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エーゲ海に惑う 2

 やれやれと溜め息をつきながらも、総一朗は「今日はね、美術館巡りをしようと思ってたの。お昼は海辺のレストランに行きたいから、ちょっと早めに連絡したんだけど」と、とりなしてきた。 「ふーん。美術館ね」  創の、気のない返事を耳にして、行きたくないのかと総一朗は訊いた。 「別に、どっちでも、どうでもいい」 「あなたって扱いにくい男ね。そんなんじゃあ……」 「イイ男失格だ、って言うんだろ。そんなのもう、どうだっていいよ。あんたにイイ男って認められなくても、オレの生活に一切、支障はないしさ」  気持ちとは裏腹の言葉がついつい、口をついて出る。本当はずっと連絡を待っていたのに、総一朗の声が聞けて、誘いを受けて嬉しいはずなのに、どうしてこんな、ひねた返事しかできないのだろう。 「それじゃあ、レストランの予約をキャンセルしなきゃならないわね。せっかく朝イチに電話したんだけど……」  悲しげな声がズキリと胸に刺さる。しまった、このままでは今日の計画が取り止めになってしまう、何とかせねば。 「……ま、朝メシまだだけど、そんなにハラは減ってないから、昼まではもつかな」  ひねくれ男の言葉の真意を即座に了解した総一朗は嬉しそうに、待ち合わせの約束を取りつけ、一方の創も計画がキャンセルにならず、ホッと胸を撫で下ろした。  それから四十分後、S駅の一般用送迎駐車場の脇に立つ創は何度となく時計を眺めては、道路の向こう側に目をやっていた。総一朗が車でここへ向かっているはずなのだ。

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