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エーゲ海に惑う 3

 今日の服装は紺と白のボーダーカットソーに紺のパンツ、白のスニーカーというマリンルックは海辺のレストランを意識して。  そこに、この前買ってもらったジャケットを合わせることで、美術館巡りという知的なデートにも対応。  これまではどこへ行くにもTシャツとジーンズの『着たきりスズメ』だった創が「イイ男は常にT・P・Oを意識しなくてはいけない」という総一朗の教えを健気にも実践した結果だった。  これならもう、いきなりダメ出しされないはず。たぶん…… 「遅いなあ……道、混んでるのかな」  そろそろ到着してもいいはずなのにと、もう一度腕時計を見ようとした時「もしかしてハジメじゃない?」という若い女の声が聞こえてきたので、そちらに顔を向けた。 「……可奈」  元カノの可奈がそこに立っていた。ちょうどS駅の改札から出てきたところのようだ。  つき合っていたあの頃よりも派手な化粧を施した可奈はそこそこ美人ではあったが、いつブリーチしたのかわからない髪の色はまだらになっており、厚化粧のせいか、顔色がくすんで見える。抜群のスタイルを強調してか、背中と胸元が大きく開いた派手な柄のブラウス、そこにデニムのショートパンツを合わせて太腿まで露出しまくっているのはいいが、その品のない服装のために、冴えない女に成り下がっていた。 「久しぶりね、全然わからなかった。なんかこう……雰囲気変わった。すっごく上品で、オシャレで、イイ感じ」 「そ、そう?」

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