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エーゲ海に惑う 4
思いがけない再会、しかも彼女の口から自分に対する誉め言葉が飛び出したため、創は照れ臭そうに頭を掻いた。
「でも、ぶっきらぼうなのは相変わらずね」
何度となく聞かされたセリフである。
「久しぶりに会ったのに、元気だった? とか、どこへ行くの? とか、何も反応しないじゃない」
「まあな」
たしかに創は口達者ではない。むしろ口ベタな方だが、芸ならぬ、ルックスは身を助けるで、これまで大した苦労もなくナンパに成功していたのだ。
「ねえ、その服とか靴って、新しいカノジョの趣味なの? めっちゃカッコよくなったよね。なんだか惜しいことしたって思っちゃった」
別れたことを後悔するほど、イイ男に変貌したというわけだ。これまでの教育の成果が表われている証拠かも、などと創は一人で悦に入った。
そこへ「おーい」と呼ぶ声が聞こえた。見ると、金髪にヒゲ面、えりぐりが伸びきったタンクトップとサーフパンツ、穴あきサンダルという、だらしのない服装の見本という格好をしたサーファーまがいの若い男が道の向こうで手を振っている。
「あっ、カレだ」
創たちと同様に、可奈とその彼氏も、ここで待ち合わせをしていたらしい。
「じゃあね」
「ああ」
男の元へ走り寄る可奈の後姿を見送りながら、創は溜飲を下げた。
(おまえとそのサーファー男、それこそめっちゃお似合いじゃん)
そう、頭からっぽのおまえなんかと違って、オレの新しいカノジョは最高さ。
美人で教養があって、優しくて気が利いて。頭が良くて仕事もできる、オシャレでセンスのいい──その正体は十九も年上の『オトコ』なんだけど……
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