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エーゲ海に惑う 5
創はそれから、今人気絶頂の二十代男性アイドルが四十代後半の大物女優と噂になった、ちょっと前の芸能ニュースを思い出した。
そのニュースを知った時、そういう男ならいくらでもモテるだろうに、モデルだのグラビアアイドルだの、芸能界に数多といる、若い美人を相手にする気はなかったのか、いくら女優とはいえ、五十が近い女なんてモノ好きなと思ったのだが、今にしてみれば彼の、その心境がわかる気がした。
若さだけがその人の値打ちを決めるのではない。尻の青い小娘なんぞが太刀打ちできない、大人の魅力があるからこそ『熟女』に惹かれたのだと。
モテ男ならなおさらのこと、相手の人間性や生きる姿勢といった、いわば中身への魅力を求めたのではないだろうか。
それにしても遅い。遅すぎる。いつもならもっと早く到着しているはずだが……
まさか事故に遭ったんじゃないよな?
不安が増してくる。そわそわと落ち着かない気分でいるところに、あのシルバーボディがようやく到着した。
「お待たせ~。ちょっと渋滞にハマッちゃってごめんなさいね」
事故ではないとわかってホッとしていると、
「あら、今日のスタイルはなかなかイケてるじゃない。少しは研究したのかしら」
「ま、少しは、な」
無愛想に答えながらも、誉められて内心は嬉しくてたまらない。
「さっきも誉められたんだぜ。元……昔の友達にここで偶然会ったら『前よりずっとカッコよくなった』って言われてさ」
すると、自慢げな創を冷めた目で見透かした総一朗は「それって元カノでしょ」と、あっさり看破した。さすがに鋭い。
(こりゃ絶対に嘘はつけないな)
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