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エーゲ海に惑う 6
「言っとくけど、脳みそが……」
「こうじ味噌の?」
「そう。そんな女にちょっとばかり持ち上げられたぐらいでイイ気になってんじゃないの」
そのセリフに、創はボソッとつぶやいた。
「オカマのヤキモチか」
「何か言った?」
「い、いや、べ、別に」
「とにかく、もっと謙遜するとか、恐縮するとか、そういう一歩引いた心構えが大切よ」
「はいはい」
片や総一朗はといえば、軽い素材のコバルトブルーのジャケットと白のパンツにサングラス。
バカンスを楽しむセレブのように、肩の凝らない、それでいてオシャレな着こなしである。さすがにセンス抜群だ。
向かった先は公立の美術館で、車を駐車場に置いたあとは幾つかのオブジェが置かれたプロムナードを進み、深緑の水を湛えた池の脇を抜けてエントランスへと入る。
常設展示されていたのは十七世紀頃の風景画で、別の展示室の近代彫刻の数々は世界の巨匠による作品だったり、現在活躍中の作家だったりと様々。世界に名だたる作家の作品が地方の美術館に保管されていたとは驚きだったが、総一朗はそれらについてありとあらゆる知識を披露し、懇切丁寧に解説をしてくれた。
「……さて、どうかしら。少しは絵筆でも取ってみようって気になった?」
「さあ。オレ、絵ヘタだもん。小学校の通信簿の図画工作はいつも最低点だったし、彫刻刀で指切ってから、ますますイヤになった」
ダメだこりゃ、と、総一朗は頭を抱える仕草をした。
「でもさ、このアートフルな雰囲気はけっこう気に入ったぜ」
「アートフル、ねえ」
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