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エーゲ海に惑う 7

 美術館をあとにすると、続いては海岸線に沿った国道に出る。 「この道、ウエスト・コーストみたいな雰囲気でしょ」  はしゃぐ総一朗に、またしても「はいはい」と気のない返事をすると怒られた。 「ウエスト・コーストって言ったんじゃ正確ではないわね。サンタモニカかしら」  今の流行歌は歌詞がダメだ、小学生の作文レベルだと文句をつけて、総一朗はラジオをCDに切り替え、カーステレオのスピーカーからは八十年代に流行った洋楽のポップスが流れ始めた。サンタモニカを演出するにはまずまずの音楽である。  しばらく走ったあと、車は海辺──といっても浜ではなく、断崖の上に立つスパニッシュレストランの駐車場に停まった。 「ここから見える海がステキなのよ」  促されて入った白い建物は全面ガラス張りで、天気は快晴とあって、見下ろした海原はどこまでも青く澄み渡っている。  白い波頭が砕け、カモメが軽やかに舞う姿を眺めていると、サーモンのオードブル、サラダにパエリアといった料理がテーブルに次々と並べられた。  それらに舌鼓を打ちながら、総一朗は「気分はエーゲ海ね」と、すっかり浮かれた様子だった。 (さっきまでサンタモニカって言ってなかったっけ?)  呆れた創はさっそくツッコミを入れた。 「エーゲ海はギリシャ、スペインなら地中海だろ。それに、思いっきり日本の海だぜ。見えるのは松の木ばっかりだし」  すると総一朗は面白くない様子で「ホント、ムードのない男ねぇ。アタシがエーゲ海って言ってるんだから、上手く合わせてよ。せっかくの教育もなかなか効果が表われないわ」とぼやいた。 「ちぇっ」と舌打ちしたあと、創はトマトにフォークを突き刺した。

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