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江崎工業オールスターズ 1
総一朗が話していた全体会議というのは『二十年後の会社の展望を考える』と銘打った、途方もないテーマの会議である。
当面の細かい議題について論ずるのではなく、十年、二十年という長いスタンスで見た場合、会社が今後も発展していくためには、どのような点を改善、改良すればよいのか。
また、どういった新規の業務に取り組むべきかみんなで話し合いましょうという、一見素晴らしいようでいて、実は無駄な時間の使い方であった。
二十年後を毎年のように語っているのも妙な話だし、もっとほかに話し合うことはいくらでもあるだろう。だいたい、その時分に今いる社員の何人が働いているというのだ。若手はともかく、参加者である管理職の大半は退職しているじゃないか。あの世に逝ってる人もいるだろうに、なんとくだらないと揶揄する声は多いが、取り止める気配はないあたり、相変わらず頑固で融通の利かない会社である。
この会議には基本的に各部署から部長クラスの者が出席するが、場合によっては課長クラスが代理を務めてもよいし、複数人で出てもよいことになっている。
今回、開発部の代表として総一朗が出ることは当に決まっていたようで、彼は総務部においては部長らのほかにも、業務課の鈴木課長の出席を求めていたらしい。
その要望が上層部に認められたとかで、思いがけない通達に戸惑った当の課長が「これはまた、どうしましょう」と漏らすのを聞いた創は総一朗があの件を持ち出すつもりなのだと確信した。
業務課の存続と二十年後の展望がどう結びつくのかは不明だが、頭の切れる男のこと、どうとでも理屈をつける所存だろう。
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