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江崎工業オールスターズ 4

 じきに始まった意見交換だが、いくら人件費等のコストが安くとも、海外への工場移転は国内産業の空洞化を招く、とか、移転に伴い国内工場が閉鎖されれば従業員の解雇や新規採用もなくなる、とか、新規採用の減少によって若年層の労働意欲を失わせるのは日本経済の弱体化につながる、など、ニュースでは以前から報じられており、また、新聞の経済欄にはとっくの昔に載っていて今さら論じるまでもない、ありきたりの意見が飛び交うだけで、目新しいものは何もない。  配られた資料に目を落としたままで、何でもいいから早く終わって欲しいと、創はそればかりを考えていた。 「……では、よろしいでしょうか?」  右隣の総一朗が手を挙げたとたん、まったりどんよりしていた室内にサッと緊張が走った。 (な、何だ?)  お偉方たちが彼に、管理職の中では若輩者の総一朗に一目置いているのが感じられて、創は面食らった。 「若年層に限らず、従業員の労働意欲を削ぐような体制、あるいは就業規則などは早急に改善、もしくは撤廃してしまうべきだと考えます。時代にそぐわないそれらは過去の負の遺産、それ以外の何物でもなく、ここで将来の展望を論ずるよりも先に、まずはそういった問題点の改革に着手すべきだと思われるのですが、いかがでしょうか」 (うへっ、カッコイイ!)  これがオカマ課長とは思えないほど、人々を睥睨し、強い口調で言ってのける総一朗の自信に満ちた態度に、創だけでなくその場にいる者すべてが圧倒されていた。

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