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離れ小島の決闘 1
さて退社時刻まで、あと二時間あまり。
総一朗との約束にすっかり浮かれ、早くアフターファイブにならないかとそわそわしていた創の元に、製造部からの連絡が入った。至急運んでもらいたいものがあるという。
「げー。あそこに行くのはちょっと気乗りしないんだけどなぁ」
浮かれ気分に水を差す展開にゲンナリするが、仕方なく台車を引き連れ、製造部への遠征を開始。気分が一気に重くなった。
総一朗に会えるから、開発部に行くのはもちろん嬉しい。営業部へは滅多に行かないし、システム部も好意的な対応をしてくれるが、製造部だけはどうも……
工場の中の通路を横切って、その先の事務室まで行くのも難儀だが、製造部内の雰囲気というか、居心地の悪さはまた格別だった。
士農工商でいえば、商にあたるのがこの製造部であると、当の本人たちが勝手に思い込んでいる。商人が悪いというわけではないけれど、自分のところの部署は一番格下だという気持ちが強いのだ。
便宜上、事務室は工場に付随した形になっているのに『あちらの本社ビル』から『のけ者』にされた『離れ小島』だとか、管理職も作業着を着用しているのはここだけ、などと、ひがみを助長する要素も多い。
総一朗が先の会議で話題にしたのも、その辺りの事情を踏まえたもので、また、さらに格下とされる業務課への八つ当たりがもっともひどい部署であり、行く度に難癖をつけられてしまうのだ。
さあ、今日は何と言ってくるのやら、さっさと終わらせて戻ろう。
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