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離れ小島の決闘 2

 事務室の前まで到着すると案の定、その場で手ぐすね引いて待ち受けていたのは製造部の先輩社員たちだった。二、三年前に入社した大卒組である。 「おっ、来たぞ、業務課が」 「おーい、チンタラしてないで、さっさとこれ持って行けよ」  嘲るようにそう言い、アゴで指図する彼らを無視して、創は黙々と作業に取り組んだ。いい齢をして、あんたらは小学生かよ。とにかく、この程度の嫌がらせしかできないヤツらを相手にしても始まらないと承知している。  そこへ騒ぎを聞きつけたのか、グッドタイミングで日野がやって来た。 「どうしたんですか、って、あれ、加瀬?」  同期の仲間の姿を目にして、孤立無援状態のところに味方を得た思いになった創は思わず「おい、日野。この人たちに仕事の邪魔をしないよう、おまえからも言ってくれよ」と文句を口にした。 「そ、そんな」  まさか先輩社員に意見するわけにもいかず、仲間との板挟みになった日野がおろおろしていると、彼らの一人が創の背中をこづいた。 「なんだこいつ、新人のくせに生意気な口ききやがって」 「ちょっとばかりモテるからって、イイ気になってんじゃないのか」  製造部内では、山葉ミチル軍団を含めて女子社員が多いゆえに「イケメン新人ナンバーワン」の話題で盛り上がっていた。つまり、創のことをカッコイイと騒ぐ女子たちの評判を、男子社員がもっとも頻繁に耳にする部署なのである。  業務課に対する嫌がらせの要因のひとつに、女に人気のある創への妬み、やっかみが含まれているというわけなのだ。

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