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小料理屋『青柳』にて 2
そのテの下ネタを好みそうなオヤジの一人が親指を立てて「げへへ」と下品な声で笑うと、総一朗は妖艶に微笑んで「やーねー、ゲンさんったら。いっつもお下劣なんだから」と、ゲンさんなるオヤジの背中を軽くこづいた。この店でもオカマキャラで売っていたらしい彼はオヤジたちの『オカマアイドル』という存在のようだ。
創がぽかんとしていると、彼の顔を見た女将が「あら? もしかして、あのときのお兄さん?」と問いかけ、それを聞いた人々の視線がいっせいに、こちらに集まった。
「おおーっ、あのニイちゃんじゃねえか。あんときゃ、ひでえ酔っ払いだったよなぁ」
「そんでも、しらふで見るとなかなかの色男だなぁ。さてはテンちゃん、うまくやったな」
みんなの冷やかしを浴びせられて、戸惑う創の腕を取ると「そうよ、アタシの新しい彼氏に昇格したの。みんな、ヨロシクね」と言いながら、総一朗は向こうのテーブル席へと彼を引っ張って行った。
「女将さん、ビールと焼き鳥お願いね」
「はいはい。冷や奴サービスするわよ」
何が何だか、さっぱりわからない。
椅子に座ったあとも、創は周りをキョトキョトと見回すばかりである。
そんな彼をからかうような視線で眺めたあと、総一朗は「何もおぼえてなさそうね」と言った。
「おぼえて、って?」
「三週間ほど前だったかしら。ベロベロに酔っ払って、この店に入ってきたじゃない」
「あっ……!」
ここはS駅前だ。大卒新人十名で打ち上げを行なったあの晩、仲間たちの元を飛び出したあと、創は何かに導かれるように『青柳』へ入ったのだった。
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