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寄せて重ねる…… 1
最新の設備を誇る高級マンションの、玄関のロックを解除したあと、ロビーを抜けてエレベーターの前まで進む。
中へと乗り込む総一朗に続いた創は高鳴る鼓動が聞かれはしないかと、さっきからシャツの胸の部分を押さえていた。
階数を表す黄色のランプが『7』を示す。先に立って歩く総一朗はやがてドアの前で立ち止まった。
「ここだよ。さあ、どうぞ」
灯りをつけると「そこのソファに座って。今コーヒーを淹れるから」と言いながら、総一朗はキッチンへと入っていった。
窓の向こうに繁華街の夜景が広がる2DKのゆったりした室内はカーペットも家具もカーテンもモノトーンで統一された、モダンで落ち着いた雰囲気だった。
赤、青、黄、緑に紫、普段はケバケバしい原色の、演歌歌手かマジシャンのような衣裳をまとい、スパンコールをきらめかせて歩くオカマ課長は仮の姿、素顔の総一朗はこういった色合いを好むのかと、室内を見やった創はそんなことをぼんやり考えていた。
そこへ芳ばしい香りを漂わせながら、カップを二客手にして戻ってきた総一朗が「大通りの傍にしちゃ、静かだろう」と話しかけた。
「ああ。何だかオッシャレ~な雰囲気だよな。オレの小汚い部屋とは大違いだ」
総一朗は創と向かい合わせに腰掛けた。テーブルの上に白いソーサーが並ぶ。
「モカでよかったかな。キリマンジェロか、マンデリンもあったけど」
「何でも。よくわかんないし」
そう言いかけて、創は慌てて付け加えた。
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