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心乱れて 3

 総一朗の過去に於いて、一緒に朝食の食卓を囲んだであろう、何人かの相手──総一朗が焼いた鮭や玉子焼きを喜んで食べ、味噌汁を美味しそうに飲み、御飯をおかわりしたかもしれない男たち――もちろん、その前夜にはベッドの上で彼を抱いていた――あの元カレ・扶桑以外にも、そんな相手がいたとしても有り得ないことではない。むしろ、いない方がおかしいと考えるべきなのだ。  そんなことは当に承知の上だ、とは思っても、相手の過去に嫉妬している自分の愚かさに、創はうろたえていた。  過去なんてお互いさま、どうでもいいじゃないか。今の総一朗は、彼のすべては自分のものになったのだから…… 「この味噌汁、美味しいね。出汁はじゃこを使ってるのかな? 母さんが作ったのと同じ味がするからさ」  話題を変えようとしてそう言うと、総一朗は一瞬、ハッとした表情を見せた。 「どうかしたの?」 「い、いや、別になんでもないよ。出汁はじゃこで当たり。口に合ってよかったよ」  その戸惑いは、狼狽は何を意味するのか。  固さの残る笑顔と、取り繕うようなセリフの裏には何が隠されているのか。  二人は結ばれたのに、気持ちが満たされない。  快晴のはずの青空に薄墨を流したような雲が広がり、創の心にも暗雲がたちこめていた。

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