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心乱れて 4

 月曜の朝、出社した創を出迎えた鈴木課長が「金曜の会議は欠席して申し訳なかった」と謝ってきた。 「キミが私の代理として出席してくれたそうで。立派な受け答えだったと部長が褒めていました。いやいや、新人ながらたいしたものですね、加瀬ヨシオくん」 「いえ、そんな……ハジメですけど」 「毎回間違うなら、フルネームで呼ぶなっつーの!」と言いたいところをグッとこらえる。  最近、齢のせいか、とみに忘れっぽくなった課長のことだ。言ったところで、どうせすぐに忘れてしまうのはわかりきっている。この調子で、彼が退職するまで間違われ続けることだろう。  ともかく、先の会議の結果を受けて、今日中に経営陣との面接があるからそのつもりでと鈴木が告げ、二人はいつもどおりの仕事に取りかかった。 (戻ってくるのは明後日だって言ってたよなぁ。なんか、すっげー先の話って感じ)  土、日と二日間、甘い時を過ごした二人だが、九州にある取引先の工場への出張を命じされた総一朗は今朝早くに荷物を持って出発し、いったん自分の部屋に戻った創はそれから会社へ向かったのであった。  しばらく会えないとなると寂しくてたまらないが、これもサラリーマンの宿命。誰かの帰りを待ちわびる、なんて気持ちは、母の帰りを待った小学生以来かもしれない。  それでも、彼と夜毎交わされるメールのお蔭で、いくらか気分が紛れた。

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