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悲しみを胸に沈めたら 5
「……あのー、すいません。シャッター押してもらえますか?」
ふいに呼びかけられ、まだ学生であろう男女にそう請われて、創は男の方が差し出すスマホを手に取った。穏やかな海をバックに、ラブラブモード全開のカップルが長方形の枠に収まる。あとでインスタにでもアップするつもりだろう、ハートマークとノロケつきで。
「ありがとうございました」
礼を述べ、こちらに背中を向けて歩き始めた彼氏に、「ねえ、今の人、けっこうカッコよくない?」と、女の囁く声が聞こえてきた。
「ほら、子供番組の変身モノやってるマイナーな俳優みたいな感じじゃない。ロケに来たのかなぁ?」
彼女の言葉に男は反論した。
「まさかぁ。たしかに見た目はそんな感じだけど、連れもいないし、本物じゃないよ」
「じゃあ、カノジョにフラれて、一人で来たのかしら? イケメンなのにもったいない」
「おまえさぁ、オレの前で色目使うなよ」
「やーねー、誤解しないでよ」
「それより早く宿に行こうぜ、ハラ減った」
立ち去る二人に一瞥をくれると、創は肩で息をついた。
何が楽しくて、幸せそうな人々の集う観光地を巡っているのか、フラれ男のみじめな一人旅。今の自分はそうと見られて当然なのだ。
これ以上、我が身に追い打ちをかけることもないと、散策を打ち切った彼は遊歩道をはずれて、誰もいない道を駅の方角へ歩き出した。が……
「そこにいるのは……創?」
懐かしい声の響きに、うつむいていた創は顔を上げ、飛び上がらんばかりに驚いた。
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