118 / 136

悲しみを胸に沈めたら 5

「……あのー、すいません。シャッター押してもらえますか?」  ふいに呼びかけられ、まだ学生であろう男女にそう請われて、創は男の方が差し出すスマホを手に取った。穏やかな海をバックに、ラブラブモード全開のカップルが長方形の枠に収まる。あとでインスタにでもアップするつもりだろう、ハートマークとノロケつきで。 「ありがとうございました」  礼を述べ、こちらに背中を向けて歩き始めた彼氏に、「ねえ、今の人、けっこうカッコよくない?」と、女の囁く声が聞こえてきた。 「ほら、子供番組の変身モノやってるマイナーな俳優みたいな感じじゃない。ロケに来たのかなぁ?」  彼女の言葉に男は反論した。 「まさかぁ。たしかに見た目はそんな感じだけど、連れもいないし、本物じゃないよ」 「じゃあ、カノジョにフラれて、一人で来たのかしら? イケメンなのにもったいない」 「おまえさぁ、オレの前で色目使うなよ」 「やーねー、誤解しないでよ」 「それより早く宿に行こうぜ、ハラ減った」  立ち去る二人に一瞥をくれると、創は肩で息をついた。  何が楽しくて、幸せそうな人々の集う観光地を巡っているのか、フラれ男のみじめな一人旅。今の自分はそうと見られて当然なのだ。  これ以上、我が身に追い打ちをかけることもないと、散策を打ち切った彼は遊歩道をはずれて、誰もいない道を駅の方角へ歩き出した。が…… 「そこにいるのは……創?」  懐かしい声の響きに、うつむいていた創は顔を上げ、飛び上がらんばかりに驚いた。

ともだちにシェアしよう!