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悲しみを胸に沈めたら 6
「あっ……!」
総一朗が、ずっと追い続けていた男が、こちらへと近づいてくる。
(ウソだ……幻覚? えっ、ほ、本物?)
本来の目的は法事なのでグレーの地味なスーツ姿ではあるが当人に間違いない。そうと確信すると、足がすくみ、舌はこわばって声が出なくなった。
目の前で立ち止まると、彼は「あー、びっくりした。あんまり似た人がいるから、こんな他人の空似があるのかって、本気で思ったわよ」と感嘆した。
(やっと会えた!)
運命を感じたなんて、大袈裟かもしれないけれど、この偶然はやはり、自分たちを結ぶ強い力があるのではないか。間違いない。
感激する創をよそに、総一朗はオカマモードで平然と語りかけた。
「アタシの居場所がよくわかったね。誰かに訊いたのかしら?」
そこでようやく言葉を取り戻した創は「青柳の女将さんが墓参りじゃないかって、教えてくれたんだ」と答えた。扶桑から聞いた法事云々は敢えて伏せておいた。
「お墓参りは正解ね。でも、ここはお墓じゃないわよ」
「そっちの実家に電話したんだけど、観光に行ったから、もうここにはいないって聞いて。それで、駅にあったロマンチックツアーのパンフ見て、あんたが観光で行きそうな場所はこの辺りかなって、勘で」
「素晴らしい、野生の勘だわ」
茶化されているようで、だんだん腹が立ってきた。I半島に到着してこの方、辛い気持ちを抱えてくじけそうになりながら、各地を巡っていたオレのことを何だと思ってるんだ。
創は明るい笑顔で飄々と構える総一朗に噛みついた。
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