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悲しみを胸に沈めたら 8
『お父さんも仏様になって、いいかげん総ちゃんを許す気になったと思うけど』
そんな姉の言葉に励まされた弟は急遽、休みを取って法要に駆けつけたのだった……
「ボクはとうとう両親を失った。そしてその、どちらの死に際にも立ち会えず、葬儀にも参列できなかった」
さっきまでの作り笑顔が消え、悲痛な面持ちで語る総一朗にかける言葉もなく、創はただ立ちすくんでいる。
遠くに聞こえる潮騒、太陽はあらかた沈んで、藍色の夕闇がそこまで近づき朱色の空と交わる。ひとつ、またひとつ、星が瞬いた。
大きく息をついたあと、総一朗は再び語り始めた。
「キミに出会ったとき、ボクは久しぶりにときめく相手の出現に浮かれていた。何とかしてキミの関心を引く、そればかりを考えて、強引に誘い続けた。夢中だった」
最初はイヤイヤつき合っていた創も総一朗に惹かれるようになった。そのことに気づいたとき、嬉しいと感じる一方で、負の感情が増幅し始めた。それは次第に大きく膨れ上がって、総一朗を強く動揺させた。
「キミはこの前、ボクの味噌汁がお母さんと同じ味だって言ったよね」
弱々しく微笑む総一朗の目には涙が浮かんでいた。
「ご両親に大切に育てられたんだなって思った。そんなキミをこのボクが……ボクと同じ道を歩かせていいのか、本当はずっと迷っていたんだ。もしも、キミ自身が両親の死に目にも会えなくなってしまったら……」
そこまで言うと彼は黙り込んでしまった。
息子が男を愛するゲイになったと知ったら、その両親はどうするだろう。
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