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悲しみを胸に沈めたら 9

 許さない、相手の男はどういうヤツだ、ぶん殴ってやると父親は怒鳴り散らすかもしれない。  お願いだから、女の人とつき合って。結婚して、ちゃんと孫の顔を見せてと母親はすがるかもしれない。  それらはすべて、彼が身をもって味わったことだった。 「……父の死を聞いて、ボクは決意した。今度こそ、加瀬創を普通の男に戻すべきだとね。ボクは戻れなかったけれど、キミなら、今ならまだ間に合う」  肩で息をつき、それから総一朗は諭すように言い含めた。 「普通の男に戻って、女性と結婚する。そのとき、結婚相手はよく選んで見極めることだ。美人だとか胸が大きいとか、そんな見てくれだけで、脳みそが朴葉味噌の女なんか、間違っても選んじゃダメだよ」 (朴葉味噌は味噌より葉っぱがメインだっつーの。だいたい、毎度味噌を引き合いに出してさ、味噌に失礼だろうが)  突っ込むのも虚しい。 「少子高齢化の折だ、ちゃんと子供を増やして、現役世代の労働人口を確保して、ボクが果たせなかった国民の義務を果たして欲しい」  太陽は最後の力で地平線を、立ち尽くす二人の顔を朱に染めた。 「だからキミには何も伝えなかった。メールも送るのをやめた。この旅は本当に……キミをあきらめたボクの……失恋を癒すひとり旅なんだよ」  創への想いをあきらめること、それは別れを受け入れること。 (それ、本気で言って……だよな。冗談なわけ、ないか)  総一朗の悲愴な決意を聞いて、ずっとうつむいたままだった創はようやく口を開いた。 「……わかったよ」  声が震え、今にも泣き出しそうになるのを堪えて、彼は続けた。

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