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悲しみを胸に沈めたら 10
「そこまで言うなら……オレ、帰るわ。こんなところまで追いかけてきて悪かったな」
「普通の男に戻れるかどうか自信ないけど」と付け足したあと、リュックを背負い直した創はよたよた、とぼとぼと、おぼつかない足取りで歩き始め、じっと微動だにしない総一朗の脇をすり抜けた。
足元から伸びた長い影がゆらゆらと悲しげに揺れ、やがて滲んで見えなくなる。
すべてが終わったのだ。
それは春から初夏にかけての、つかの間の幻……
大切な何かを失って、胸が張り裂けそうに痛い。
恋なんて二度としない。
結婚なんてクソくらえ。女も男も、もう、どうでもいい。誰も好きになったりするもんか、絶対にっ!
悲しみを超えたやるせなさ、怒りのエネルギーが胸の内にふつふつと沸き起こる。ダメだ、このまま黙って引き下がれるものか。
振り返って、それから創は大声で叫んだ。
「天総一朗のバカヤローッ!」
しばしの沈黙のあと、
「誰がバカヤローだって?」
総一朗の反撃に、堰を切ったように言葉が溢れ出す。
「バカヤローだから、バカヤローって言ったんだ、文句あるか?」
「何だと?」
「だったら最初から、オレを気に入ったなんて言うなよ!」
「だからそれは……」
「イイ男に育てるとか、部屋に来いだなんて誘惑するな、タコ!」
「ひ、人の気も知らないで、黙れ!」
「うるせえ、ボケジジイ!」
「このクソガキッ!」
口汚い罵り合いが続く。大きく息を吸い込んで、創はさらに叫んだ。
「それでもあんたはオレの天使、エンジェルだからな!」
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