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悲しみを胸に沈めたら 11
総一朗がハッと目を見開く。
創は大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら告げた。
「結婚相手を選べだと? あんたより気が利いて、料理が上手くて、優しくて頭も良くって、腕っ節が強くて頼りになる女なんて、そんなのどこにもいるわけねえじゃん!」
「創……」
リュックを放り出した創は全速力で総一朗の元に駆け寄ると、その身体を激しく抱きしめ、力ずくでキスをした。
とたんに、腕の中の、痩せた身体ががっくりと崩れ落ちた。
「ボクは、ボクは……男で、キミより二十も年上で……」
総一朗の言い訳を創は強い口調で遮り、まくし立てた。
「十九だろって、そんな今さら、どうこう言うことじゃねえだろうが! オレが好きなのか嫌いなのか、どっちなんだよ? ハッキリしろっ!」
「嫌い……なわけないだろ! 何度も好きだって言ったじゃないか」
「だったら親がどうとか、結婚相手を選べとか、気をまわし過ぎだってんだ。この、おせっかいジシイ!」
キスの雨を降り注ぐと、総一朗の流す涙がシャツを濡らして、そんな姿が愛しくて髪を撫で、また唇を重ねる。
「ダメだよ、創。ボクはキミとは」
「まだ言ってんのかよ、いい加減に……」
「ボクは父の遺影の前から逃げ出した臆病者だ。姉さんはもう一泊していけって勧めたけど、とても耐えられなかった」
すべてにおいて完璧、陽気でいくらか強引な男も父親の死という非情な現実には勝てず、昨日の四十九日の法要を経て、精神的にかなり打ちのめされていたようだ。
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