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悲しみを胸に沈めたら 12

「こうして旅人を気取っていれば、現実を忘れられる気がした。キミのこともあきらめられると思った。どこまでも逃げるつもりだった……父だけじゃない、ボクはキミに対しても卑怯で臆病者なんだよ」  止まらない涙を拭おうともせずに、総一朗は震えながら呟いた。  夕闇に包まれて街に灯がともる。遠くに煌めく車のライトが時折、二人の姿をかすめて、もうS駅まで戻る手段はないなと、創は頭の片隅でぼんやり考えていた。 「でもやっぱり好きで、好きで……たまらなく好きで……あきらめるなんて、そんなことできるわけなくって……辛かった」  こんなにも気弱になった総一朗を目にするなんて、彼のペースに振り回されていた頃からは想像もつかない状態だった。  創は静かに、諭すかのようにゆっくりと話しかけた。 「……ウチの親父は頑固者じゃないし、オレの親はオレ自身が何とかするから、心配しなくていいよ」  そう言って優しく励ましながら、彼は胸の内で決意を固めていた。  ゲイであるがゆえ、もたらされた家族の悲劇──それが総一朗をここまで追いつめていたのかと思うと、我が身を切られるようで辛くなったが、だからこそ決めた。  かつて抱いた不安や恐れはすべて振り捨てた。これからは総一朗と一緒に、共に支え合って生きていくのだと…… 「この先、あんたにはオレがずっとついている。二度と悲しい思いをさせはしないから、もう泣くなって」 「でも……」 「いいから、いつものあんたに戻ってくれよ。でないと、調子狂っちゃうよ」  涙で顔をくしゃくしゃにしながら、総一朗はようやく笑顔になった。

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