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ハッピー・ウェディング 9
エヘン、と咳払いをする様子が可愛らしいような、年寄り臭いような、奇妙な男はおごそかに誓いの言葉を述べ始めた。
「……ワタクシ、天総一朗は加瀬創を永遠に愛することを誓います。ほら、続けて」
「えーっ、こんなところで? マジかよ、メチャメチャ恥ずかしいって」
すっかり腰が引けている創に、総一朗は不満げな表情を向けた。
「『愛してるよ』って、昨夜はさんざん言ったじゃない」
「あれは、その……」
ゴニョゴニョと言い訳をしつつも、創は真顔になって「ワタクシ、加瀬創も天総一朗を永遠に愛することを誓います」と言い、「はい、これで文句ねえだろ」と付け加えた。
「よしよし、上出来」
「なぁ、もう帰ろうぜ」
「ダメよ、このあと鐘を鳴らすんだから。三回よ、三回。間違えないようにね」
「うっへぇ~」
リーンゴーン、澄んだ鐘の音がはるか彼方に向かって高らかに響き渡る。海も空も、大自然のすべてが祝福してくれる、そんな気分になれる。
「うーん、最高!」
壮大な海原を前に、大きく背伸びをした総一朗は創を振り返って言った。
「やっぱり、本物の結婚式がしたくなっちゃった」
「ええーっ?」
たじろぐ創にはお構いなしに、総一朗のトンデモな発言が続く。
「やろうよ、結婚式。ね、いいでしょ」
「マジで言ってんのか?」
「マジもマジ、大マジだから」
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