4 / 23

4.御縁様

いつの間にか眠ってしまい次の朝には二日酔いの頭痛に悶えていた 頭の痛みで昨夜見た夢など忘れてしまっていた・・・ ただずっとふわふわした心地よさが感じられていたのは覚えていてなんとなく気分はよかった。 今日は大学も休みで夕方からバイトのみだった。 俺は落ち着くまでもう少し休むことにし午後すぎにようやく動けるようになり 掃除や課題を先にすすめバイトに出勤する頃には身体も回復していてた。 お店に出勤して用意をする。 するとオーナーに呼ばれて昨日同様VIPルームの担当にまわされた。 昨日の今日でやれる自信がなく正直に話した上で断ろうとした・・・だが 「おや、自分が来る時は清君に来るよう本人には伝えていると伺っていたんですが・・・」 その言葉に今日のお客様が誰だかすぐにわかった。 (確かに昨日 頻繁に来るからと言われたが・・・まさか連日とは・・) それに確かにあの場では了承するしかないと受けたが今日のうちにオーナーに話し今後は変えてもらう予定でいたのだ しかし相談するよりも早く次の部屋の予約を入れているとは思いもよらなかった。 「あの、オーナーすみません・・御縁様でしたら確かに俺が担当すると了承しました。」 オープン一時間前に個人の我儘で周りに迷惑はかけられないため担当を承諾する。 そして今日終わったらすぐに相談しようと決意もした。 「あぁそれなら良かったです!こちらのお客様は大事な方なので特に丁寧に対応をお願いしますね。」 断りずらいこを言われて少し気まずくなる。 「はい、気をつけます。」 少し不安を感じなあら考え込んでいるとオーナーから声をかけられた。 「あ、あと・・こちらのお客様はお名前を伏せているので表では出さないようにして下さい。」 「すみません!以後気をつけます!」 やはり名前は伏せていた方だった。それでも担当した自分に名前を出してくれたというのは・・・仕事を少しだけ認めてくれたということなのだろうかと都合よく考えてしまい少し嬉しかった。 何事もできればもちろん嬉しいが喜んでくれたり認めてもらえるのは尚更嬉しい。 それはコミュ症な自分でも感じる密かなことだった。 「はい、では宜しくお願いします。」 オーナーはそれだけ言うと微笑みながら仕事に戻った。 改めて気を引き締めて自分も仕事に戻る。 その日から御縁様は連日、店を訪れるようになった。 VIPルームは基本的に事前予約のものだが俺は当日に担当を言われることから御縁様は予約は取らず優先的に案内しているようだった・・・ だいたい開店してから少しした夕方から日にちが変わる閉店までいることがほとんどで それが一週間続いた・・・・・それまでオーナーに相談しようとしたものの忙しいオーナーのタイミングも合わず自分もひたすら緊張する日々が続いて仕事が終わった日は心の疲労がすごかったのもある だがほぼ毎日担当に入ってしまい他にもきになることが増えた。 自分があまりに担当についてばかりでホールを手伝えずボーイとしての仕事ができていないような気がして・・周りにも申し訳なくなんとかオーナーの数分の休憩時間に捕まえて話をすることができた。ふだんは数少ないオーナーの休憩時間を奪ってしまうのは申し訳なく諦めていたが周りへの迷惑もあるためここは謝罪をして時間をもらった。 そして御縁様との出来事とここ最近の仕事内容について感じていることを全てオーナーに打ち明けた。 だがそんな自分の悩みを優しくいつもの笑顔で聞いてくれた。 「気にしないで大丈夫ですよ。清君はちゃんとお仕事をしてくれています。 君のおかげで助かってますよ。」 「ですが・・・」 大丈夫と言われても不安はぬぐえない。 「うちのお店は客層が特殊ですから接客のマニュアルも決まりは大きくありませんし逆に臨機応変に対応できることが一番だと考えています。動いて疲れることだけが仕事内容ではないんですよ。ですから清君がやってくれていることもきちんとしたここでの仕事です。雇い主は私ですからそこはちゃんと見ています。なのでそんなに不安にならないで下さい。」 「ありがとうございます・・・。」 これ以上いううのは逆に失礼になるような気がしてオーナーの言葉を受け取った。 それでもすっきりせず・・御縁様にも促したことがある。 「私とよりも、よろしければどなたかキャストをお呼びいたしますか?」 少なくとも人との会話が苦手な自分よりも女性キャストの方が話は上手だし楽しいはず。そう思っていたのだが 「俺はお前と話したいと言ったはずだ」 鋭い視線を向けられながらキッパリと断られてしまった。 自分もそう言われると断られず・・・諦めた。 幸いなことに初回の時のようは恐ろしい緊張感はなくなりそれなりに会話もできるまで距離は縮まった。 こちらから声をかければ御縁様は受け答えをしてくれるので担当を降りなくてもなんとかやっていけそうだと思い始めたのだ 一週間経つとお互いの会話も増え柔らかい表情も見ることが増えていった。 そんな時・・・ 「お前は一人暮らしだったな」 突然な個人的質問だった。 だが隠すこともないので素直に答えた。 「はい、学校は奨学金で行き働きながら生活をしています。」 今はそういう暮らしをする学生も少なくはないのでそんな変わったことは言ったつもりはな買ったがそのあとの言葉にはあまりにも驚いた・・・ 「なら、俺の所有するマンションに住め」 「え・・・・?」 「家賃などはいらない。セキュリティもしっかりしている方がいろいろと安心だろう、足りないものや引越しの手続きはこっちで用意する。」 頭が追いつかない俺をよそに話を進めていく御縁様・・・流石お金持ちは冗談でも言うことが違うと頭で否定したが御縁様の表情はふだんの真面目な顔だった。 ここ数日打ち解けるようになり御縁様の感情が読めるようになってきたのだ だから今御縁様が本気か冗談かの区別はさすがにわかる。それでもなぜ急にそんなことを言ったのか理解できなかった。 そしてなんとか口を開き話を返したのだ。 「御縁様、大変ありがたいお話ですがお気持ちだけ受け取らせていただきます。」 御縁様は相手に否と言わせない節がある。お酒などの勧めは本当にこれ以上はきついという時は遠慮してくれるが他のことにはあまり受け入れてくれない。 「俺はそうしろと言っている。」 今回もやはりそうだった。 俺は少し怯えながらも、胸にモヤッとした気持ちを抱き続けた。同情だろか、最近距離が縮んできたから優しさなのかもしれないでもその優しさは正直自分には受け入れられなかった。 逆にそう思うほど自分の弱み見せてしまったのだと後悔すらしてくる。 だからここは引かずに断った。 「いえ、私は今の生活に不自由はなく満足しています。 のご好意は嬉しく思いますが私には必要のないものですから」 そう言い放ち適当な理由をつけて一度退室した。あのままあの場にいたら御縁様に流されることになる。 VIPルームを出て歩きながら気持ちを落ち着かせようとしたが握る拳には力が込められていた。 (どうして・・) (俺にとってはただのお客様、あんなものを受け取る理由はない!それにあんな同情まで受けるなんて・・・緩みすぎた。) 価値観が違うのだからしょうがないそれは分かっていた。だがなんとなく勝手にショックを受けただけだった。 俺が一度裏に戻っていた間に御縁様は店を出ていたようでVIPルームにはヒビが入った空のグラスや灰皿に入った吸いかけだったような煙草が一本 テーブルにあった・・・ その様子から、さすがに機嫌を損ねてしまったと項垂れ片付けていく・・・ オーナーには深く謝ったが困った表情をして早く帰り休むように言われた。 結局早退をして家に着くと倒れ込むように眠りについた――

ともだちにシェアしよう!