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5.災難

次の朝、ドアのノックで目を覚ました。 玄関のドアを開けると大家が立っていて今月中に部屋を出るように告げられた。 眠気混じりだったがその言葉に目も覚めた。 「な・・・どうして急に!?」 慌てる自分に大家さんは困りつつも少し嬉しそうに答えた。 「実はここを立て直すのよ! もうかなりボロボロだしなんとかしなくちゃと思ってたんだけど格安で受けてくれるところが見つかったからお願いすることにしたの!」 大家さんは嬉しそうに語る・・・ だがそれとは対照的に自分は固まってしまう。 「だから当分の間申し訳ないんだけどお友達のところにとかに泊まらせてもらってちょうだいね。期間はどれくらいになるかわからないけど一度更地にしてから新しくする予定だ時から長期間になると思うわ。」 「・・・はぃ」 「あ、急に勝手言ってるのはこっちだから解約する時は無償で構わないからほんとごめんなさいねぇ。」 「いえ・・・わかりました。」 正直とても困るが決まってしまった以上自分にはどうしようもない。 このアパートは築何年かもはや分からないほどの状態だった エアコンは入居した時に貯金をはたいて取り付けたがそれ以外はとても綺麗とは言えない。 しかも住んでいるのは俺ともう一人接点はないからあまり知らないが入居者は二人のみ 確かにあまりにも少ない・・・大家さんが建て替えたいのも分かる・・・ だが、自分一人で家に招くような友人もいない俺には丁度よく 一人自由に過ごせることが重要であり家賃も安く満足していた。 「どうしよう・・・」 自分には泊めてくれるようなほどの親しい友人はいない。 知人がいないわけではないが自分の中では二度と頼らないと決めている。 頭を抱えつつもまた後で考えようとひとまず大学に向かった。 だがバイト先や住まいのことで講義に全く身が入らず・・・悩んでいた。 そんな時、同じ講義をとっていた数少ない友人の上谷 慎(かみやまこと)が声をかけてくれた。 「柳瀬、大丈夫か?具合悪いなら休んだほうがいいぞ。」 「あぁ・・・体調は大丈夫。」 上谷は大学入学の時に落し物を拾ったきっかけで数回話か出てくれるうちに親しくなった友人と言える存在だ。 同じ講義をとっているため今もたまに声をかけてくれる今日はきっと悩んでいることが顔に出てしまったのだろうと思う。 「じゃぁ、なんか悩みか?言ってみろよ聞くぜ?」 「う・・・・」 悩みを話していいものかと戸惑ったが今は情報が欲しかったため上谷ならと聞いてみることにした。 「上谷さぁ・・・どこか格安の物件知らないか?」 「引っ越しするんだ?」 それだけで言葉の意味を理解する上谷は頭がいいのだと思う。 そう返されればお願いしておきながら事情を話さないのもと思い軽く告げる。 「あぁ・・・うん、大家さんがアパートを建て替えるらしくて今月いっぱいにはって言われて・・・」 貯金はしていても新しく借りるのと引っ越しとではあまりにも足りない・・・ 「あぁ物件は知らないけどギリギリまでダメだったら俺の家こいよ!」 「いや、それはさすがに申し訳ないよ・・・」 突然の誘いに申し訳なく必死に断った。 「だからギリギリまで見つからなかったらさ!俺としてはすぐにでもいいけど柳瀬そういうの意地でも遠慮するだろうし、だから月末までに解決策見つからなかったら気にせず頼れよ!」 「・・・ありがとう。とりあえず頑張って探すよ。」 「おぅ!一応俺も友達に情報聞いてみるからさ!」 そう言って上谷は次の講義へと向かっていった。 上谷はただ親切なのではなく相手が乗りやすい助け舟をいつもさりげなく出してくれるようなやつで普段関わりが少ない俺も上谷にはありがたく助けてもらうことが稀にある。 だが、やはり甘えてしまうのは気が進まないため頑張って解決策を探すことにした。 「まずはバイト先だ!」 結局あの後オーナーから連絡などはなく仕事クビかとずっと考え込んでいた・・・ そのため休みの日だが店に行って直接謝罪と話をしに行くことにした。 店に着き早速オーナーの元へ。 「オーナー!先日はすみませんでした!」 勢いよく頭を下げる清に何事かと驚きながらも何に対してか気付いたようで優しく声をかけてくれた。 「清君、早退のことなら気にしないで大丈夫ですよ?」 「でも・・・」 せっかく仕事の悩みで励ましてもらっていたのに結局大事なお客様を怒らせてしまったなんて仕事ができるできない以前の問題だ。 「誰にだって具合が悪い時があります。」 その言葉を聞き疑問がよぎる・・・具合が悪い? なぜ自分の体調不良の話になるのかわからなかった。落ち着いて思い返してみると一度部屋をでて戻った後のことを詳しく知らない。 「あの・・・VIPルームのお客様は先日・・・」 清が伺うように尋ねると。 「あぁお客様でしたら急に仕事が入ったからと君が席を外している間に退店されましたよ。」 「え・・・」 「清君の具合がよろしくないようだったのに付き合わせてしまってすまないとおっしゃっていました。」 オーナーの言葉に戸惑う。あの日はきっと失礼な態度をとり更に戻った部屋にはひびの入ったグラスまであったのでてっきりお怒りになったとばかり思っていた。それでも自分を気遣って体調不良と伝えお詫びまでさせてしまった。 そんな事実にどうしようもない罪悪感が湧き上がってくる。 「そう・・・ですか」 オーナーは察するように微笑んで様子を伺ってくる。 それに対して自分はどう反応すればいいのかわからずにいた。 「とりあえずその様子では体調は大丈夫そうですね。また明日からお願いします。」 「はい、ありがとうございます。」 話を終えるとオーナーは仕事に戻り自分もこのままでは邪魔になってはいけないと店を後にした。ゆっくり歩きながら昨日のことを振り返り今日聞いた話を含めて整理する。 そして次の機会に御縁様に謝罪とお礼を言おうと決めた。その後のことはその時になってみないとわからないのだから (次は物件だ!) 気持ちを切り替え問題を一つずつ解決することにした。 近くの物件のチラシやネットで探したがなかなか見つからず。 大学もバイトも問題なく過ごしていたが変わったことといえば御縁様が店に来なくなったことだった。 毎日のように来ていたのでもしかしたらと思っていたが都合よく考えすげていた。 おそらくもう来ないだろう、来たとしても担当を変えられるのは確実だろうと受け止める。 せめて来てくれれば次の担当に頼むなりして謝罪だけは伝えたいがお店に来なければそれも叶わない。後悔がどんどん重くのしかかってくる。 とりあえず今は仕事をして気を紛らわす。 オーナーからも病み上がりなのもあり当面はキッチンをメインにと指示されたため裏方に徹していた。 半月が過ぎたが、やはりいい物件が見つからず厳しかった。 苦渋の決断で今回は上谷に甘えようかと思っていると・・・ 「柳瀬・・・」 丁度、上谷が隣に立っていた。だが、何やら表情が暗い 「引っ越し先・・・見つかったか?」 「まだ見つかってないんだ・・・」 「そっか・・・」 なんだか上谷の様子に違和感があった。とても気まずそうに俯き深呼吸をしたかと思えば急に頭を下げてきた。 「柳瀬・・ゴメン!」 急な謝罪に目を見開いてしまった。 周りの目も気になりとりあえず頭をあげて止めてくれるようお願いした。 落ち着いた上谷を隣に座らせて話を聞く。 「前に、当てがなかったら家に来いって言っただろう・・・実は・・ダメになった・・・」 申し訳なさそうに項垂れる上谷は本当に悲しそうに話してくれた。 「そ、そんな謝ることなんてないよ!申し訳なくて断るつもりだったし!」 平然を装いながら言ったが、そんなもの上谷には見透かされていることを気づきもしなかった。そんためか上谷は困りながらもいつもと同じトーンに戻って会話してくれた。 「はぁ・・・最近マンションの部屋に友人を一緒に暮らさせてた奴が問題起こしたらしくてシェア生活のようなことは禁止だって管理人が・・・見つけたらすぐ出て行ってもらうって激怒してさ」 タイミング的にそれはどうしようもない上谷がここまで謝ることではないのに本当にいいやつだなと思う。 「本当ごめん・・・」 いいやつだからこそあまり気にして欲して欲しくなくて自分もいつも通り笑いながら答える 「それは災難な状況だね・・・」 「代わりに俺も引き続き周りの奴に聞いてみるからさ。」 「ありがとう。でも気持ちだけで十分だよ。」 これ以上迷惑をかけるのはやはりよくないので範囲を広げて調べてなんとか打開策を見つけようと決める。 そして講義が始まる鐘がなり話はここで終わった・・・

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