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7.拉致

目が覚めると、見知らぬ天井が見え重い身体を動かしながら周りを見渡す。 ベッドとサイドテーブルにクローゼットらしきものだけの広々とした部屋だった。 「え…此処どこ?」 深く深呼吸をし最後の記憶を思い返していると扉が開く音がした ガチャッ (!!?) 目を見開き開いた扉の方を見る…最後の店での記憶を考えれば主犯など明らかだったが信じたくなかった だがそこには俺を此処に連れてきた張本人が立っていた。 警戒して少しでも距離を取ろうと体を動かす。 その人物…御縁様は紙袋を差し出してきた。 自分はただ袋と御縁様を交互に見る。 「着替えだ、そのままでは窮屈だろう。」 素直に受け取れるほどの勇気もなくためらっているとベッドの端に置かれた。 「・・・あの、これは」 「話は着替えてからだ。」 こちらの言葉を遮る様にそう言い残して彼は出て行った。 明らかに危険な状況なのは感じるがここで暴れても仕方がないかと意外と冷静に考えられていた (まずは・・話を聞くべきなのだろうか。) 考えても仕方がないと渡された着替えを手にバイトの制服から着替える。 用意してくれたのは黒のテーパードパンツに肌触りの良い長袖の白いシャツサイズもぴったりだった。 着替え終わり扉をじっと見つめてしまう この後何が怒るのか全く想像がつかない、息を呑み扉へと足を進める 息を潜めながら扉を開け隣の部屋を覗く… 重く感じた扉は思っていたよりも軽くカチャリと音が響いた様に感じる、叶うならば何もなければいいと思いたいがその願いは聞き届けられず開いたと同時に声が聞こえた。 それはいつも通り深く透き通った声 「着替えたならこい」 出て行くと御縁様はソファに寄りかかりながらiPadを操作していた。 ソファはお店にあったような派手な高級感もなく一般家庭によく見られそうな生成りのソファ、サイズは2人座れるくらいだろうか ソファの前にはこれまたシンプルなローテーブルが置いてあり既に御縁様と自分のだろう飲み物が並んで置いてある 俺はとりあえずテーブル横に腰を下ろす 作業を遮ってでも話を聞きたかったため不安になりつつ声をかけた。 「あの・・・御縁様。」 声をかけると作業をやめこちらに身体を向ける。 話す体勢になったと判断してそのまま続けることに 「・・・此処はどこですか?何故いきなり連れてこられたんでしょうか?」 まずはそこの質問が大事だと思う。 彼と目が合うと恐怖、ではないがつい目をそらして俯いてしまった。 「まず此処は俺の所有するマンションの部屋で今日からはお前の部屋だ。」 御縁様は淡々と同じトーンで返す 「は・・・?」 「前のアパートは解約済みだ。戻っても無駄だぞ。」 「なんで!そんな、勝手なっ」 本当にさして重要ではなくただ報告するかの様に話を続けている 驚愕し座っていた身体を乗り出しそうな勢いで自分も返す 「前にも言っておいたはずだ。」 「・・・あれはお断りしたはずですが」 質問以上のことを言われ意味も分からず冷静ではいられずつい強気に出てしまった。だが相手は気にもしていない様子で話し続ける 前回のことを思い出す…あの話はきっとただ同情しただけだと思っていた、だからこっちも断りの言葉ははっきりと言った。 そのためあのような気遣いをさせてしまい罪悪感を感じていたがそれでも受け入れるつもりなど全くない 「それを承諾はしていない。」 (意味がわからない) あまりに真っ直ぐと告げられ言葉もない。 「お前だってアパートを追い出されて困っていたんだ丁度いいだろう。」 「なんでそれを・・・」 話した事もない情報をだされ何故かと恐怖に近い感情が湧き上がる 「学校も通わせてやるし好きに住めばいい・・・・だが、バイトは辞めろ。」 話についていけないなりにも言葉を拾っていたが更に聞き流せない言葉が聞こえた。 受け入れることなどできるはずもなく断ろうと話を遮る 「ちょっ!そもそも此処に住むなんて納得してないですし勝手なことばかり言わないでください!」 「もしお前が自分から辞めないならこちらで話はつけておく。」 だが結局く聞き入れることなく話を進め、相変わらず刺さるような視線を向けられ身体が硬直してしまう。 お断りだが今此処で断ったら何をされるかと考えると強硬手段にはでられず とりあえず今は頷くしかなかった… 心の中ではなんとかしなければと焦るばかり。 そこでふと自分の持ち物を思い出し尋ねてみた。 「俺の荷物はどこですか?」 「アパートの荷物は別室だ。店にあったバッグは寝室に置いてある。携帯は新しいものを用意しておいた。」 「なんで・・・」 まさかそこまでされてるとは思わず何度目か驚愕する、家に勝手に入ったのか、はたまた必要最低限を用意されたのか、今は考えられない その様子を伺いながらどんどん話は進められ話を聞き逃さないことで精一杯になる 「必要な連絡先だけ入れておいてある。俺からの電話には必ず出ろ。」 「・・・・。」 …もはや言葉も何も出ない。 「他に質問がなければ俺は仕事に戻る。」 そういい立ち上がり俺の目の前に来るなり額に柔らかい唇を落とした… 固まる俺をよそに御縁様は部屋を出て行った。 恐怖を感じていたなかに予想外の行動をされ戸惑いを隠せない 残された俺は触れられた額を隠すように抑えてその場に倒れこんだ。 (顔がほのかに暑く感じるのはきっと気のせいだ…) 最後の表情だけはお店であっていた時の優しい表情をしていたからか混乱してしまう 本当は何が目的なのか 何故こんなに自分に肩入れするのか 自分は何もないましてや金になるものなんてないはずなのに ・・・・・・・。

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